がん末期「自分の死と死後」を仕切った男性の凄さ 「もしも」のときの事、早めに家族で話し合いを

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Aさんはその過程のなかで、自分が「亡くなるまで」と「亡くなった後」の希望について、家族やわれわれ医療者と本音で話し合っていました。

本人も家族も余命がどれくらいか知っていることで、お互いに隠しごとをせずに話せていたのも大きかったようです。そこには現実を知って、ありのままを受け入れ、自分たちなりに納得のいく最期を迎えようとするAさんと家族の姿がありました。

Aさんが息を引き取った日の、家族の穏やかな表情も忘れられません。その日にAさんが亡くなったとは思えないほど落ち着いていて、本人と家族が現実を受け入れ、繰り返し本音で話し合ったからこそ生まれた、最期のあり方を目の当たりにしました。

Aさんが、自分が「亡くなるまで」と「亡くなった後」のことについて話し合った過程は、人生の最終段階を過ごすために大切な「人生会議(ACP : Advance Care Planning)」と呼ばれるもので、ここ数年日本でも活発に議論されるようになったテーマです。

ACPの定義は、「今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス」といわれています。話し合いの主な内容は、病状や予後の理解、治療や療養に関する意向などです。

実は、終末期に意思決定が必要な患者さんの約7割もが、認知機能などの衰えによって、医療やケアを自分で決めたり、希望を人に伝えることが難しくなるといわれています。そのため終末期になる前の、なるべく元気なうちに、本人の意向や価値観について家族が理解し、共有し合うことが大切です。

「もしも」の話の切り出し方

とはいえ、いざというときの「もしも」の話をどうやって切り出すか、悩まれる方は多くいらっしゃいます。事実、私の父親も「できなくなってきたらどうするか」という話が大嫌いで、話の切り出し方には散々頭を悩ませてきました。

そんななか、私がいろいろな患者さんにお会いして有効だと感じたのが、第三者からの意見や情報をフックとし、さりげなく話を切り出す、という方法です。

例えば「こないだテレビでやってたけど、いざというときのためにこういうことを話しておいたほうがいいらしいよ」「セミナーで聞いたんだけど、親が元気なうちにどうやって過ごしたいか確認しておいたほうがいいという話があった」「聞いておかないと、あとからトラブルになることもあるらしい」など、“たまたま知り得た情報なんだけど、大事なことのようだから”という感じで切り出すのです。

今、記事を読んでいただいているあなたは、この記事をきっかけに話をしていただくのもいいと思います。「こんな記事を見かけたんだけど」と、ぜひ話を切り出すきっかけにご活用いただけたらと思います。

そのうえで、まずは「もし家で動けなくなったら、どこで過ごしたい?」など、具体的に「過ごしたい場所」について聞いてみましょう。

「施設がいい」という話が出たら、「どんな施設がいいの?」ともう少し突っ込んで聞いてみること。施設のチラシを見ながら、「こういうところに入ってみたいって思う?」などと聞いてみるのも手です。

ここで大事なポイントとなるのは、親の“財布”事情です。

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