IT業界では、Intelの創業者グループの一人である故アンディ・グローブ氏が好んで使っていた「戦略的転換点」と呼ばれる、市場環境が変わってしまう時期がある。その戦略的転換点で、多くの企業は従来のやり方を選んでしまい変化を拒否して、緩慢な死を迎えるというのが、グローブ氏の指摘だ。
NVIDIAにも何度もそうした戦略的転換点があった。だが、凡百の経営者とは異なり、フアン氏は変わり続けるほうを選んできた。その代表例がCUDAの取り組みで、そこで変化を受け入れたことが、後にAI、生成AIならNVIDIA GPUという流れを作ることにつながった。そのように従来の成功に安住するのではなく、戦略転換点でそのつど最善の選択をして、会社を新しい方向に向けてきた。
不安要素は後継者問題と「供給不足」
そうした現状絶好調のNVIDIAだが、客観的に見て不安要素がゼロかと言えばそうではない。不安要因は大きくいって2つある。1つはカリスマ経営者であるフアンCEOの後継者問題であり、もう1つは生成AIによりNVIDIA GPUの需要は高まるばかりなのだが、その需要に応える供給が行えていないことだ。
30歳でNVIDIAを創業したフアン氏も今や60歳を迎えており、普通の会社員であれば定年を意識するような歳だ。ただ、フアン氏は30度を超えるような台湾でも、公式の場に出るときはトレードマークの革ジャンを欠かさず、かついつも涼しい顔をしているなど、健康面での不安はまったくないと考えられており今日明日に急にCEO交代が発生する事態になるとは思えない。
しかし、それでも明日はどうなるのかがわからないのが人生である以上、文字通り「余人をもって代えられない」カリスマ経営者フアン氏の後継者問題はNVIDIAにとっては不安要素と言わざるを得ない。仮にそうした不幸な事態が起こらなくても、カリスマ経営者から後継者のバトンタッチがうまくいかないのは、日米の企業でよく目にする事態だけに、NVIDIAにとっても「フアン氏の後」に備えた後継者の育成は大きな課題と言える。
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