わかりにくい10電力決算を整理すると? 「値上げ」「再稼働」次第で様変わり

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北陸電はもともと原発依存度が低かったため、原発停止後も料金値上げを行うことなく、合理化によって何とか経常黒字を維持してきた。2014年度は、燃料安に伴う燃料費調整制度のタイムラグ効果が約80億円あり、経常利益は223億円と前期比125%増だった。

今年度については、会社予想は未定だが、安全審査中にある志賀原発2号機の再稼働は見込めず、タイムラグ効果も減る。ただ、北陸電気工事の連結化効果や諸経費圧縮で、経常小幅増益を狙う形となりそうだ。久和進社長は、「2011年度から2014年度までは内部留保を取り崩して50円配を行ってきたが、2015年度は配当を賄える利益(純利益で104億円以上)を確保したい」と話している。

北陸電と同様、もともと原発依存度が比較的低かったのが中国電力。原発停止後も料金値上げを回避しながら、赤字を最低限に抑えてきた。2014年度は燃料費調整制度のタイムラグ効果が約200億円あったことなどから、経常益が587億円と前期の36億円赤字から3期ぶりに黒字化した

2015年度について会社側は未定としているが、現在規制委が安全審査中の島根原発2号機の再稼働は見込みづらい。運転40年を経過した同1号機は廃炉が決まった。ほぼ完成済みの新設・同3号機はまだ安全審査の準備段階にあり、稼働のメドは立っていない。その中で今期は、燃料費調整制度のタイムラグ効果が若干減ることに加え、繰り延べしてきた修繕費などの経費も反動で増えることから、経常益は400億円前後へ減ることが予想される。

東北と沖縄も減益

東北電力は安全審査中にある女川原発2号機が2016年4月、東通原発1号機が同年3月に再稼働すると想定している。ただ、両機の審査の終了メドは立っておらず、2015年度も原発停止を前提に業績を考えるのが妥当だろう。

2014年度の経常益は1166億円で前期比約3倍になった。2015年度については、修繕費がやや増える見込み。新仙台火力発電所3号系列の運転開始に伴い、減価償却費も増える方向のため、経常減益が予想される。

東日本大震災で避難し、放射線検査を受ける住民(写真:AP/アフロ)

最後に、沖縄電力については、会社側が2015年度の業績見通しを開示している。会社予想は経常利益が54億円で、前期比29%減益。前期に約30億円あった燃料費調整制度のタイムラグ効果が、今期はほとんどはげ落ちることが主因だ。

ただ、同社は大手電力10社の中で唯一、原発を保有しておらず、原発停止の影響がないため、業績は黒字のまま比較的安定している。

全体的に言えば、原発頼みの会社が多い中、電気料金の値上げによって業績の最悪期は抜け出しつつあるとはいえ、なおも原発再稼働の行方に業績が大きく左右される状況に変わりはない。2016年4月からは、電力小売り全面自由化で他業界も入り乱れた競争が激化する。大手電力会社には、原発に依存するだけではない、革新的な競争力強化策が必要となっている。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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