「らんまん」残り1カ月でも主人公の存在感薄い訳 主人公が何かを成し遂げる作品とは違う魅力

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昨年、人気だった『鎌倉殿の13人』(2022年)がまさにその方法論に則った、お手本のような作品で、終盤まで主人公は目立たず、時代の波に翻弄され敗北していく人物たちに毎回、見せ場があり、愛されて退場を惜しまれた。

『らんまん』にもまた、時代の変わり目で、不要となってしまう価値観や人物がいて、それらへの惜別やリスペクトの念が流れている。コロナ禍を経て、急速にパラダイムシフトしている令和の現在とも重なりあう。だからこそ見続けてしまうし、万太郎が、それでも自分の信じた道を変えず、進んでいくことは地味でもじわじわと効いていて、視聴者を勇気づけているはずなのだ。

妻・寿恵子の死をどうやって描くのか

モデルの牧野富太郎の場合、植物図鑑を完成させたときには伴侶はすでにこの世にはいない。妻は、富太郎より先立ってしまうのだ。これこそがドラマの切り札であろう。

人の死をドラマの見せ場と捉えることは不謹慎だが、一切、自分が不幸だと思わず、夫を支え続けて、それをわくわく冒険のように捉えてきた寿恵子が亡くなるのは、大河における最大の去りゆく者の物語になるだろう。たくさんの人を見送ってきた万太郎が、最愛の寿恵子と別れることになったとき、どんなふうになるのか。これは絶対に見たい。

だが、史実をアレンジしているドラマなので、亡くならない可能性も残されている。例えば、過去の朝ドラには、亡くなる予定の人物が視聴者の声によりしばし延命されたという作品もある。亡くなるか亡くならないか、亡くなるとしたらいつなのか。

固唾をのんでXデーを待った朝ドラといえば、夫の新次郎(玉木宏)がいつ亡くなるか気になった『あさが来た』(2015年度後期)、妻のエリー(シャーロット・ケイト・フォックス)がいつ亡くなるか気になった『マッサン』(2014年度後期)である。

先日、寿恵子を演じる浜辺美波が、朝ドラのあとの情報番組『あさイチ』のプレミアムトークに出演した。このコーナーに番宣で出た俳優はその番組から退場間際であることが多く、早くも寿恵子、退場かと視聴者をざわつかせた。

が、浜辺は、「3人め(の子ども)を産んだばかりなので まだまだ元気いっぱい」と視聴者を安心させた。とすれば、最終回近くまで寿恵子の物語は引っ張るに違いない。主人公が何かを成し遂げるか、主人公が大切なものを失うか、相反する2点が、長丁場の朝ドラでは視聴者を引き付けてやまないのである。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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