「らんまん」残り1カ月でも主人公の存在感薄い訳 主人公が何かを成し遂げる作品とは違う魅力

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モデルのいない『舞いあがれ!』(2022年度後期)ですら、主人公が航空機のパイロットになることを事前の内容紹介で期待していたのにパイロットにならなかった(最終的には空飛ぶ車を操縦するのだが)という落胆の声があがっていたほどなのである。

『らんまん』は主人公がほかに花を持たせる作品

朝ドラの視聴者は長らく、主人公がひとかどのものになることを待ち望んできた。ところが、今回、万太郎が植物図鑑を完成させるのはまだか? という声はSNSでも目立っていない。それでもこの物語は大丈夫であろうと思えるのは、『らんまん』は主人公がひとかどのものになる話ではなく、万太郎がほかの登場人物たちに「花をもたせる」作品だからだ。番組のタイトルバックのラストカットは万太郎が花をカメラ目線で差し出している。

寿恵子をはじめとして、要潤が演じた田邊教授、主人公の姉・綾(佐久間由衣)や、使用人だった竹雄(志尊淳)など、万太郎が出会った登場人物たちの生き方にスポットが当たり続け、SNSの反応を見ても、主人公よりも、彼らに気持ちを寄せているように感じる。

これまで朝ドラでは、視聴者は主人公に感情移入し、その成長や成功を見守っていく物語が多かったが、今回、そうではない理由は、主人公が他者に“花をもたせる”ことが「雑草という名の草はない」という、モデルである牧野富太郎の言葉を体現しているであろうことは明白である。この言葉のように「脇役という名の役はない」「悪役という名の役はない」のである。それがこのドラマの魅力である。

万太郎は、登場人物、1人ひとりを主人公にする稀有な主人公である。彼が植物図鑑を生涯かけて完成させることを視聴者はそれほど強く待ち望んでいない。だからなのか、万太郎が植物図鑑を作るためにお金の苦労を人任せにしているという批判も、従来の朝ドラほどさほど強くはない。

万太郎は当初、実家が裕福だったため、金銭面で苦労なく、植物に関する書物や顕微鏡などを購入し、上京した際の生活費なども援助してもらっていた。やがて、実家の経済状態が破綻すると、寿恵子がお金のやりくりをするようになり、万太郎は自身の研究費用を自力で捻出しようとはしない(8月末時点では大学の助手として働くようになったが)。モデルの牧野富太郎もそうで、とにかく好きな植物研究にお金を使い、現在における9000万円もの借金があったとか。

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