そのような生活を半年間続けた後、木下さんは第二新卒枠で人材紹介会社に就職。そこから、5年近く働いてふたたび転職をし、現在は人事として働いている。
「もともと、人事の仕事をやりたかったのですが、人材紹介会社だと面接担当と説明会担当に分けられるため、それだと面白くないと思い、今も仕事をしている会社に1人目の人事として転職したんです。今は採用を中心に働いています」
養護施設で生活している子どもたちの大学進学率は低いけれど…
ようやく仕事と給料が安定したことで、入学金で借りた第二種奨学金の返済は終わり、今は毎月1万4000円の返済が残っている。
大きな額でもないため、41歳になるまで9年間、少しずつ減っていく返済額を見ながら、自分のペースで返していくつもりだ。今後は節税対策で投資も考えている。
現在、32歳ながら、文字通り波瀾万丈の人生を送ってきた木下さん。奨学金という存在がなければ、大学どころか高校に行くこともできなかったのかもしれないのだから、もちろん借りたことに後悔はない。
「大学まで進んだことは正解だったと思います。というのも、以前いた人材紹介会社で『学歴不問』とは言いつつも、大卒を求められる事が多いことを知ったからです。
今の職場はベンチャー企業のため学歴は問われませんが、それはそれとして地頭を求められるため、大変だと思います。この社会は、大卒が当たり前というか、それがベースになっているんですね。人事目線で見ても、大卒でよかったと思います」
ところで「千葉日報」によると千葉県が今年の3月に創設した「児童養護施設等退所者への進学奨学金制度」に対して、「ZOZO」の創業者で起業家の前澤友作氏から1000万円の寄付の申し出があったという。
この千葉県の給付型奨学金は養護施設や里親など、社会的養護のもとで育った子どもが、大学や専門学校に在学している間、毎年30万円支給されるそうだ。
同奨学金は2024年度の進学分から適用されるとのことだが、これまでの木下さんの話を見てきてわかるように、そもそも養護施設退所者の大学進学率は相当低い。同紙によると2021年に千葉県の養護施設から大学などに進学したのは19人で、全体の39.5%。県全体の進学率83.9%と比べると低水準にとどまっているという。
だからこそ、現在、養護施設で生活している子どもたちにとって、参考・希望になると感じた木下さんのライフストーリーだった。
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