徹底解明、宮﨑駿「君たちはどう生きるか」の謎 すべての登場人物やシーンには元ネタがある

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タイトルに引用された『君たちはどう生きるか』も、主人公の書棚に入っている。宮﨑氏の人生を支え、映画のタイトルとして生かされた名著が、ここで感謝を込めて紹介されている。

さて、「下の世界」への入り口となる、謎の洋館である。これは明治維新の頃に突然降ってきた物体を隠した建物なのだが、西洋文明という存在を描いたものと思われる。

黒船による開港から始まった西洋文明は、日本の近代化の礎となったものの、のちの軍部の台頭により、自由な芸術等の発表禁止措置が広まったことで、洋館で囲い込まれ、市民が触れられない存在となってしまったのである。塔のあるその姿は、宮﨑氏の愛読書である江戸川乱歩の書「幽霊塔」がモチーフなのかもしれない。

青サギは鈴木敏夫プロデューサー?

主人公の眞人が、行方知らずとなった継母の夏子、つまり、戦前の日本で禁止されてしまった「芸術と創造」を追って、青サギ男に誘われて向かった「下の世界」から、別の次元の世界となる。映画公開前、鈴木敏夫プロデューサーが明らかにしていた、宮﨑監督作品ならではの、冒険活劇ファンタジーな展開は、ここから始まる。

さて、青サギとはいったい何者であろう。あらゆる場面で主人公と関わり、そして共に歩いていく存在。それは.....鈴木敏夫プロデューサーだ。多くの場面で主人公を護ることになる、青サギと風切り羽(矢羽根)。これは、宮﨑氏の創作意欲を、さまざまな障害から護る鈴木氏の存在にほかならない。

知り合った当初は、なかなか相容れないつながりであり、時に仲たがいもしたものの、次第に深まってゆく友情。映画の終盤では、お互いに助け合い、幾多の困難を乗り越えてゆくという関係は、鈴木氏以外にはいないと思う。そして「詐欺」にも通じるキャラクター名の青サギ男。鈴木氏も大笑いしながら、映画を楽しんだことだろう。

「下の世界」は、黄泉を思わせるファンタジーな世界であるとともに、宮﨑氏が歩んだ、現実の戦後世界とも重なって表現されている。

洋館の中に入っていった眞人が、最初に出会った人物は、この建物を建てた後、姿を消した大伯父である。宮﨑氏が尊敬する偉大な人物といえば、それは間違いなく高畑勲氏である。若き日に出会い、その後の苦労も共にし、やがてスタジオジブリを創設した、代えがたき盟友であり師でもある。多くの書籍を前にした大伯父の姿は、本の虫であり知識の泉でもあった高畑氏の姿が重なる。

ここで砕け散る印象的な薔薇のシーンは、この映画制作中に亡くなられた高畑氏を偲んだものであろう。赤い薔薇の花言葉は、情熱、愛情、美..... 。実に氏の人生にふさわしい言葉が並ぶ。薔薇が1本だけ、というのも、宮﨑氏にとって高畑氏が唯一無二のかけがえのない存在、ということを表している。

「下の世界」で出会うそのほかの人物にもモデルがいるし、そこで繰り広げられるアドベンチャーも宮﨑氏が体験した出来事が重なるのだが、その詳細については、別の機会に発表したいと思う。

青空 旅人 コラムニスト

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あおぞら・たびと / Tabito Aozora

東京生まれ。旅と食と映画を愛すコラムニスト。アニメ制作の過程をさまざまな場面で取材し、雑誌などに執筆している。生きがいは旅。これまで南極を含む6大陸100カ国以上に滞在し、各地の文化を訪ね歩いている。

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