徹底解明、宮﨑駿「君たちはどう生きるか」の謎 すべての登場人物やシーンには元ネタがある

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映画の始まりは昭和初期の「上の世界」である。

宮﨑氏の生い立ちはすでに多くの文献で明らかになっている。そこからわかるのは、牧眞人は生きた時代も境遇も、紛れもなく宮﨑氏自身の少年時代の姿であるということだ。両親への曲がった愛情や、喫煙との出会い、軍国少年の風貌など、宮﨑氏の当時の姿がよみがえってくるようである。

映画の冒頭、眞人は空襲により実母のヒサコを失う。実際の宮﨑氏の母は病弱であったものの健在であり、このヒサコは何かの象徴で描いたものと推察される。ヒサコは「自由と平和」を象徴とする存在なのであろう。その自由と平和は凄まじい火災、つまり太平洋戦争の開戦で失われてしまったものだ。

そして11歳の彼は、豪放な37歳の父・勝一とともに、疎開をすることになる。宮﨑氏の父も、軍需を支えた宮崎航空工業の工場長として、戦闘機の製造に携わったことから、青年実業家の父は「大日本帝国」そのものを表したに違いない。

ディズニーへのリスペクトも

また主人公が反発し、その後、行方知らずとなってしまう継母の夏子は「芸術と創造」の象徴と思われる。戦時中、軍部による検閲で、手が届かない場所へと行ってしまった、表現の自由を表しているのだ。

学校では、弓矢の作成(軍事教練)を受けるが、その校友たちとの生活の過程で、小石による自傷行為に出る。これは、出会ってしまった「漫画」であると考えると理解しやすくなると思う。規律正しい軍国少年として育った宮﨑氏にとって、当時、漫画は絶対に出会ってはいけないものであった。しかし、決して消えないその思春期の時の傷が、やがて希代の名監督としてアニメーションの育成に関わっていく人物を生み出すことになる。

このほか、疎開先の「青鷺屋敷」には眞人を見守る7人の老婆たちが出てくるが、これは紛れもなく、宮﨑氏が愛したアメリカによる動画の象徴である「白雪姫」7人のこびとがモチーフ。生き方を示してくれた、ウォルト・ディズニーへのリスペクトも忘れていない。

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