トヨタが「マルチパスウェイ」戦略を掲げる真意 技術領域トップを務める中嶋副社長に聞く

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――そんな水素と大気中のCO₂(二酸化炭素)を用いると、eフューエルが作れます。グッドウッドでもこのeフューエルを使った「GRスープラGT4」がデモランを行いました。

(eフューエルなら)これまでのエンジンを使いながらカーボンニュートラルを実現できる。水素以上に保有に効くビジネスです。CO₂は完璧なグリーンでなくても工業でたくさん出ているので、それを用いてバイオ燃料を作って、混合比率を上げていけばいい。もちろん値段の話はあるが、保有における貢献は圧倒的だ。保有に対して「クルマを全部変えて」「エンジンを変えて」とは言えない。現在社内で議論している最中だが、eフューエルも石油会社に何かできることはないかと話をしています。

グッドウッドで、eフューエルを使った「GRスープラGT4」がデモランを行った(筆者撮影)

――ただ、残念ながら水素やeフューエルは“高い”と言うだけで批判の対象になっています。

現時点で値段が高いのは事実ですが、努力は報われると思っているし、答えがわからない以上は将来の芽を摘むのはよくない。トヨタには僕らが言う前からやっている人が必ずいて、困った時に「それ、あるよ」と言ってくれる。そもそも「作る」を知らないと「運ぶ」も「使う」もできません。「手の内化」という言葉を使うと誤解されやすいが、技術の中身や本質を理解していれば、その先は全然違います。

テクニカルワークショップの時に「今まで以上に先行開発にシフトしたい」と言ったのは、人がいるからこそ技術が見え、アイデアに結び付くから。水素エンジンは、もともと「やめよう」と言っていたのに、「クルマを作ってみたら?」から始まった。イチ断面だけで判断すると「本当に必要?」になってしまうが、長期で見るとドン・キホーテがエースになるかもしれない。佐藤社長がそういう目線で見てくれているのは嬉しいことです。

お金の問題ではなく技術としてやるか、やらないか

つまり、単純にお金の問題ではなく技術としてやる/やらないという判断です。でも、実はやらないという判断はなく、「やってみて何か見えたら教えてね」という発想。それを次のステージに上げるためにも、僕ら経営陣が浅くてもいいので技術を知ることが重要だと思っています。

中嶋裕樹(なかじま・ひろき)/1962年生まれ。1987年京都大学大学院工学研究科修了、トヨタ自動車入社。チーフエンジニアとして「iQ」や「IMV」を担当。2020年執行役員、Mid-size Vehicle Company President(現任)、2021年CV Company President(現任)、2023年から副社長、Chief Technology Officer(写真:トヨタ自動車)

チャレンジに対してみんなが後押しするのが今のトヨタです。たとえば水素エンジンはおそらく半数以上の人が「無理でしょう」と見ていた。それを「応援しなければ!!」という機運にしたのは章男会長です。われわれ白い巨塔(=技術部)の変革に時間がかかったが、結果としてものすごくアグレッシブに開発できるようになった。それは本当に感謝しかない。それを取材してくれたメディアの方々が発信してくれたことで、水素という言葉が日常で聞こえてくるようになったのも本当にありがたいと思っています。

――昨今、BEVは専用プラットフォームの話がよく出てきます。トヨタはそれもトライする一方でマルチパスウェイ・プラットフォームも並行して進めています。

今、議論しているのは「BEVを作ったらFCEVになるようにしよう」ということ。バッテリーのスペースに水素タンクを置けるようにする、それがマルチパスウェイ・プラットフォームであり、鞍型の水素タンクだ。これは是非とも使いたい。同じモーター/周辺部品で構成するが、水素で供給してほしい地域、ダイレクトに充電したほうがいい地域に合わせて2台を開発することができます。

トヨタは新車領域で色々なパワートレインのバリエーションを持っているが、ベースがつながっていなかった。しかし、今後は根っこがつながっていれば同じラインで何でも作れる。今は過渡期なので、何がどう変わるかわれわれもわからない。だから、マルチは大事。

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