トヨタが「マルチパスウェイ」戦略を掲げる真意 技術領域トップを務める中嶋副社長に聞く
「カーボンニュートラルに全力で取り組むが、正解がわからないから選択肢の“幅”を広げることが大事」とマルチパスウェイ戦略を取るトヨタ自動車。その基本方針は佐藤恒治社長率いる新体制でもまったくブレていない。
佐藤社長は「新しい経営チームのテーマは『継承と進化』です。豊田(章男)社長が浸透させてきた、トヨタが大切にする価値観があるからこそ、われわれがやるべきことは『実践』のスピードを上げること」と語っている。その証拠に、直近のトヨタのさまざまな発表は、より“具体的”な内容が多い。
その1つが、社内に「BEVファクトリー」と「水素ファクトリー」という2つの専任組織をつくったこと。もう1つは、現在開発中の技術を惜しげもなく披露した「テクニカルワークショップ」を開催したこと。さらにダイムラートラックとのそれぞれの子会社である日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合と、それに伴う水素領域の協業である。
これら3つの発表には密接なつながりがあるのは言うまでもない。一方、トヨタが何を思い、何を考え、今後どんな行動をしていくのかはまだ見えてこない。
英国のモータースポーツイベントでデモラン
そのヒントを探しに筆者が訪れたのが、7月13~16日に英国で開催された世界最大級のモータースポーツイベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」だ。ここでトヨタは、持続可能でカーボンニュートラルな未来に向かっていくためのマルチパスウェイの考え方をテーマに、eフューエル(合成燃料)や水素の可能性を示す車両展示やデモランを実施した。
トヨタは2022年のWRC第9戦イープル・ラリー・ベルギー、2023年のル・マン24時間レース(フランス)と、欧州で水素エンジン車両のデモランを行っており、今回はその第3弾となる。
豊田氏は「英国はモータースポーツ発祥の地、クルマに関するさまざまな“DNA”はあると思っています。現在、(英国は)BEVシフトの先導を務めていますが、『本当にそう思っています?』と聞きたい。私はWRCベルギー、ル・マンでデモ走行を行い、共感してくれる人が増えていることを実感した。グッドウッドはクルマ好きのお祭りなので、より後押しになってくれると嬉しい。クルマ好きが正しくカーボンニュートラルを理解し“共感の輪”がより広がってくれることを期待する。最後はユーザー、つまり世論が判断してくれるはずです」とその意義を説明している。
グッドウッドでは水素「GRヤリス」のデモランを「Mr.ビーン」で知られる俳優のローワン・アトキンソン氏が担当。彼はモータースポーツ愛好家(実はGRヤリスのリアルユーザー)としても知られているが、走行後に「とてつもなく楽しい」「水素はトヨタがモータースポーツの進む可能性を感じている方向性の1つであり、感情を失わないよう内燃機関を維持するための選択肢の1つだ」と語った。
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