トヨタが「マルチパスウェイ」戦略を掲げる真意 技術領域トップを務める中嶋副社長に聞く
――グッドウッドに来る前はドイツに行っていたと聞きましたが、ダイムラートラック?
おっしゃる通りで、日本での提携発表後に個別に議論をしたが、それを形にするために行った。さらにグッドウッドでは水素エンジンの話があったので、より広がった。FCEVだけでなく「水素エンジンはどうしていくのか」という議論も、詳しくは言えないがそれぞれやっています。
技術者の夢ではなく、「将来、内燃機関も使えるようにしよう」「液体水素はこうやって活用できるのでは」など、それぞれが持つ想いをオープンにでき、仲間という意識がより高まった。これまではどうしても「国の政策」「基準がない」「自分たちがあまり言うのは」みたいな遠慮があったが、このような連合になったことで一緒に議論する場ができたのは大きい。
――2021年のS耐富士24時間で水素エンジンが実戦デビューしました。これをキッカケに“仲間”がたくさん増えました。今回、トヨタ×ダイムラートラックのタッグは新たな仲間づくりだと思っています。日本のメーカー同士は「競争と協調」をよく理解していますが、海外メーカーはどうなんでしょう?
日本での取り組みの説明を行い、独禁法があるので「競争と協調はハッキリしましょう」と。実はサプライヤーさんとはある意味コンペティターだが、「見える化」を行うことで理解をいただいている。協調に関してはまずはルールづくりで、メーカー/サプライヤー間だけでなく、国や政府と一緒にやらないと無意味な開発競争は無駄でしかない。
そこがしっかりと決まれば同じ土俵で競争ができる。誤解してほしくないのは、「トヨタが来たら基準ができる」わけでは決してないということ。トヨタはそこまで欧州でのプレゼンスはありませんので。
レース活動で仲間が増えた
――ただ、水素技術をレースで鍛えていることがニュースになり、世の中に広がっている感はあると思います。
実はダイムラートラックは日本の商用車についてはあまり知らないのに、レース活動は「やってるんでしょ?」「ミスター豊田が乗ってるんでしょ?」とよく知っている。なので、私は「レースをやっている裏で商用車の技術展開をしています。だから、レース自体が開発なんです」と言うと、「なるほど、そうなんだ」と理解してくれる。そういう意味では、今回のグッドウッドはわれわれの活動を後押ししてくれていると思っています。
――特にイギリス人は「クルマ好き」「モータースポーツ好き」、そして「日本車好き」ですからね。
そんなイベントで水素をアピールすることは大きな意義がある。豊田会長は「仲間づくり」と言っているが、ここでも仲間は増えたと思っています。
――商用車の話に戻りますが、欧州でも水素の仲間づくりは広がり始め、基準づくりは進み始めていると考えていいわけですね?
欧州は確実に水素を大量消費するマーケットで、たくさんの技術を持ったメーカー、サプライヤーがいる。なので、われわれはカーメーカーという立場よりも「水素のエレメントを作る仕入先の仲間の1人」という考えだ。ただ、われわれのゴールは“乗用”で水素を燃料とするクルマがたくさん走ることだ。
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