トヨタが「マルチパスウェイ」戦略を掲げる真意 技術領域トップを務める中嶋副社長に聞く

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――残念ながら、今は「クルマが先か」「インフラが先か」という状況なのも事実です。

水素ステーションの誘致は商用車で大量消費しないとなかなか厳しいのも事実だが、乗用車は決して諦めていない。すでに「クラウンセダンFCEV」もお披露目したし、日本やル・マン、そしてグッドウッドでも「MIRAIスポーツ」の提案を行っています。

――今回欧州に実際に来られて、水素はもちろん電動化シフトに関しては、正直どんな感じですか? 僕は今回イギリスにベルギーからクルマで来ましたが、道中それほどBEVを見かけませんでした……。

政策的に「ユーロ7導入」や「ICEバンが来る」などと言われているが、日常生活がそうなっているかと言うと……。僕らは勘違いしがちだが、「クルマは1台しか保有していない」という先入感がある。実は中国もBEVと普通のクルマの複数所有が多い。そんな人に話を聞くと、「エンジン車も好きだけど、一度BEVに乗ってみようと思った」と言う意見が多い。残念ながら水素はそこまで市民権を得ていないので、まずはレースのような活動で実際に走っている姿を見せることが大事だと思っています。

――2023年東京オートサロンでは、水素エンジンにコンバートされた「AE86」が話題となりました。既販車への対応が可能なのも強みの1つと言えます。

水素エンジンのベースはガソリン車のその物を使っている。インジェクターを変え、タンクを積めば気体水素であればやれなくはない。タンク技術も容量だけでなく形状……丸型だけでなく鞍型もトライしている。また、NOx(窒素酸化物)の処理の問題はあるが、ディーゼルで培った後処理技術もある。100年以上培ってきた内燃機関の技術がまだまだ活かせますよ、と。

「水素をエネルギーとして使える」という発想が大事

――その割にはなかなか理解が得られないのは、なぜだと思われますか?

恐らく、水素をクルマだけで大量消費するのは現実的ではなく、例えば定置発電など別のこともやる必要がある。そこは英国も興味を持ってくれています。当面はグリーン水素とグレー水素のコンバインかもしれないが、まずは「水素をエネルギーとして使える」という発想に持っていくことが大事だと考えます。

――水素はさまざまな方法で生成が可能です。

先日インドの人と話をする機会があり、とてつもないフードロスがあると聞きました。もちろんフードロスをなくすことが大事だが、すぐにはなくならないのでエネルギーに変換して水素を作ることが大事だな、と。われわれは水素を「使う」と「運ぶ」がミッションだと思っていたが、「作る」という行為に一旦首を挟み、「その難しさは何か?」「トヨタの技術が役に立てないか?」と水電解にもチャレンジする。バイオメタンから水素を作る装置もタイの拠点に導入します。

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