「電子ピアノ」の売れ筋が特需を経てさらに変化 初心者向けニーズ続く中、高価格帯商品が脚光

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しかし、売れ筋の商品はコロナ前後で変化がみられる。低価格帯の商品が減少した代わりに、高価格品の売り上げが増えているのだ。

楽器のうち、初心者が手にしやすい低価格帯(おおよそ10万円以下)はインフレや景気低迷の影響を受けやすい。2022年度下半期から、欧米を中心に低価格帯モデルへのマイナス影響がすでに表れている。そのため、もともと低価格帯に強みがあるカシオは、他社と比べて2023年度の見通しが弱い。

各社が続々と高価格品を投入

ただカシオも手をこまねいているわけではない。注力中の高品質ピアノ「Privia(プリビア)」シリーズで2022年9月、約25万円の最上級ラインを投入。壁に向かって設置するタイプとは一線を画す、家の中心に置いて楽しむことを想定したデザインの電子ピアノだ。

こちらは好調が続いており、「独自の市場を見つけ出した」とカシオの田村誠治上席執行役員は自信を見せる。2022年度の販売台数は8000台だったが、2025年には2万2000台の販売を目標にしている。

静岡県浜松市に拠点を置く3社も高価格帯に力が入る。ヤマハと河合楽器は、アコースティックピアノの弾き心地と音を再現したモデルに強みがある。自社のグランドピアノの音色を数種類搭載するなど、電子ならではの機能を取り入れている。

ヤマハの「Clavinova(クラビノーバ)」シリーズは、本格派電子ピアノとして知名度が高い。約20万〜40万円と安くはないが、ピアノ学習者にとって定番の商品だ。近年はクラビノーバでも、ピアノ以外の音や複雑なリズムが楽しめる、大人のピアノ学習者やコアな趣味層を想定顧客とする多機能モデルの投入が続く。

ヤマハの本格派電子ピアノ「クラビノーバ」
ヤマハの「Clavinova(クラビノーバ)」。ピアノ学習者向けの電子ピアノとして定番だ(記者撮影)

電子楽器専門のローランドは2023年3月、自動演奏機能がついた「グランド・デジタルピアノ」の新製品を発売。190万円もするが、高級感あるインテリアとしても注目されており、北米を中心に人気だ。

巣ごもり特需が終わっても業界が好調な理由は、顧客層の拡大だけではない。電子ピアノに商機を見いだしたメーカーによる創意工夫が、新たな需要を生み出しているという側面もありそうだ。

吉野 月華 東洋経済 記者

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よしの・つきか / Tsukika Yoshino

精密業界を担当。大学では地理学を専攻し、微地形について研究。大学院ではミャンマーに留学し、土地収用について研究。広島出身のさそり座。夕陽と星空が好き。

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