アメリカの“弱腰"を懸念し始めたウクライナ 戦争の終わりが見えないまま反攻に最大注力へ

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東部ドネツク州の前線近くで銃を構えるウクライナ軍(写真・AFP=時事)

難航していたウクライナ軍の反攻作戦に新たな動きがあった。さまざまな試行錯誤の末、ウクライナ軍は2023年7月末、大規模な攻撃作戦用にと温存してきた精鋭部隊の一部を満を持して初めて南部戦線に投入したのだ。

反攻作戦開始から約2カ月、反攻作戦のギアを一段上げたと言える。しかし、いよいよこれから、というこの時期、ウクライナ政府に今春までのような高揚感が乏しいのが実情だ。むしろ、今後に対する不安感が霧のように立ち込め始めている。それはなぜか。その内実を深掘りしてみた。

ウクライナ顧問「何か、くさい臭いがする」

「憂鬱なアレストビッチ」。今キーウではこの言葉が政治的流行語のようにしきりに語られている。前ウクライナ大統領府長官顧問である安保問題専門家オレクシー・アレストビッチ氏が2023年7月半ばにネット上で行った発言がきっかけだ。少し長くなるが、悔しい思いのたけをぶちまけた彼の発言の内容を、以下に紹介する。

「(全占領地の奪還を意味する)1991年の国境線まで戻すことがわれわれの憲法上の義務であり、その目標は変わっていない。しかし、戦場でわれわれが決定的優位性を得るための武器が供与されない。なぜだ? 何か、くさい臭いがする」

 

この「くさい臭い」発言に込められたのは、アメリカへの強い憤懣だ。ウクライナ側が強く要請している、アメリカ製F16戦闘機や、長射程地対地ミサイル「ATACMS」の供与がいまだに実現しないのは、アメリカのバイデン政権の意向を反映したもので、それがゆえに反攻作戦が思い通りに進まない、という不満だ。

F16に関してバイデン政権は2023年5月、ヨーロッパの同盟国が供与することを容認する方針に転じたものの、供与の前段階であるウクライナ軍パイロットの訓練すら始まっていない。

これについて、アメリカは公式的には様々な技術的理由を挙げているが、アレストビッチ氏は、実際には技術的な事情ではなく、ロシアに対する軍事的な「決定的優位性」をウクライナ軍に与えたくないというバイデン政権の戦略が隠されていると指摘したのだ。

曰く「われわれの外交上の目標は、われわれの主要なスポンサーのそれとは異なるのだ」。つまり、バイデン政権は侵攻してきたロシア軍に対し、ウクライナ軍が負けないよう軍事支援はするものの、圧倒的に勝つような軍事的優位性は与えないという戦略的目標を持っているという見方をアレストビッチ氏は示したのだ。

そのうえで、アレストビッチ氏は今後、領土奪還のテンポが大きく上がらず、反攻作戦が膠着状態に陥った時期を見計らって、バイデン政権がウクライナとロシアに対し、戦争を凍結し、停戦協議を行うよう提案するだろうとの見立てを示した。

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