これに加えもう1つ、ウクライナが神経を尖らせているアメリカの動きがある。バイデン政権内で対ロシア秘密交渉役を担っているバーンズ中央情報局(CIA)長官の閣僚級への格上げだ。今後、より権限のある地位になったバーンズ氏がロシアとウクライナの間に入って、停戦交渉開始に向けた外交工作を始める前触れではないかとゼレンスキー政権は警戒している。
バーンズ氏はすでに2023年6月末にロシア対外情報局(SVR)のナルイシキン長官と電話会談したことが明るみに出ている。ウクライナの軍事筋によると、本稿執筆時点で、バーンズ氏がロシア政府側と何らかの秘密交渉をしたという形跡はないという。
こうしたバイデン政権に対し、アメリカ内からもすでに公然と批判が出ている。その代表的人物が、ホッジス元アメリカ駐欧州陸軍司令官だ。
あるユーチューブ・チャンネルに出演したホッジス氏は、そもそも論として、バイデン政権には当初からウクライナに全占領地を奪還させる、つまり勝利させるつもりはなかったと指摘した。
アメリカはウクライナが勝つことを望んでいない
バイデン政権がウクライナへの軍事支援を巡り、合言葉のように掲げていた「as long as it takes (必要とされる限り)」という原則について、ホッジス氏はこう解説する。「必要な兵器をなるべく早く渡すという善意を意味しているだけで、必要な軍事支援を今全部行うとは約束してはいない。空虚な宣言だ」と。
つまり「アメリカは、ウクライナが敗戦することを望んでいないが、一方でウクライナが勝つことも望んでおらず、国際的に承認済みの1991年の国境線を回復することも望んでいないようだ」と指摘する。こうした見方はウクライナ側と軌を一にするものだ。
ホッジス氏は、最終的にどのような形で戦争を終わらせるか、についてバイデン政権内で明確な戦略が決まっていないようだと指摘する。この点では、停戦交渉を提案してくると警戒を強めるウクライナ政府とは若干見方が異なる。「今、ホワイトハウス、国務省、国防総省の間で今後どうするか、議論が行われていると思う」と指摘し、アメリカはATACMSなどを早く供与すべきと述べた。
いずれにしても、ホッジス氏はバイデン政権がプーチン政権を倒すつもりがないとの見方を示す。プーチン政権に対する戦略的姿勢として「ロシアとはいかなる問題が発生しても、話し合いで問題を最終的に解決できると考えている」と指摘する。
ここで話を反攻作戦に戻そう。戦況は地点ごとに、ウクライナが攻勢に出ている方面とロシア軍が主導権を握っているところがあり、まだら模様状態だ。
例えば、東部ドネツク州の要衝都市バフムトは、ロシアの民間軍事会社ワグネル部隊に一度は制圧された後、ウクライナ軍が周辺部からジリジリ盛り返して半ば包囲状態だ。包囲網が完成すれば、守るロシア正規軍に投降を呼び掛ける可能性があるという。
一方で同じく東部のクプヤンシク・リマン方面ではロシア軍が約10万人規模の増援部隊を投入して、激戦が続いている。
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