2021年以前、中国の自動車輸出台数は10年間ほど100万台前後で推移していた。3年連続の急増は驚異的なパフォーマンスだと言える。UBSの中国自動車産業研究責任者である巩旻(ゴン・ミン)氏によると、「自動車輸出の構造が大きく変わるにはきっかけが必要だ」という。
日本の自動車企業は1970年代の石油危機を利用してアメリカ進出への足がかりを築き、そこからグローバル経営が始まった。中でもトヨタ自動車は優秀な実績を残し、世界最大の自動車企業になった。
中国の自動車企業には近年、同様のチャンスが訪れている。2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界の自動車サプライチェーンは混乱。半導体チップが不足し、各社の生産は制限された。
ゴン・ミン氏によると、多国籍企業は限られた半導体資源を利益率の高いモデルの生産に充てることを選択し、ヨーロッパやアメリカ市場への供給を優先させたという。こうした多国籍企業が手放したほかの市場のスペースを中国の自動車企業は引き継いだのだ。
「もちろん、過去数年にわたる品質向上やコスト面での優位性がなければ、チャンスが巡って来たとしても、中国企業はそれを受け止めきれなかっただろう」とゴン・ミン氏は語る。中国のガソリン車がひそかに発展し時期が来るのを待っていたのだとすれば、EV(電気自動車)の置かれた状況は別次元のチャンスだと言える。
「まるで中国の会議に出席した気分」
6月末、フランスのEMリヨン経営学大学院副校長の王華氏(上海にある同大学院アジア校校長を兼任)はヨーロッパを訪れ、新エネルギー車(NEV)をテーマとする業界会議に出席した。「まるで中国に関する会議に出席したような気分だった。午前中だけで、各代表のスピーチや議論に中国が何十回も登場した」と王華氏は振り返る。
匿名を希望した国際的に著名なコンサルティング会社の幹部も「今や中国のEV車が先頭を走り、中国自動車産業が絶好調であることは世界中が知っている」と述べている。
EUは2035年までにガソリン車の販売を禁止することを決定しており、EVへの移行が急務の状況だ。グローバル自動車企業は、100年以上にわたり蓄積してきたガソリン車の優位性を見直さざるをえず、その衝撃は計り知れないものとなっている。
イギリスのメディアは、「ヨーロッパ市場において本当の意味で魅力的だといえるEVは、テスラの上海工場から輸出された『モデル3』や『モデルY』か、あるいは上海汽車集団の『MG』だ」と報じた。
ドイツの自動車専門誌は、上海汽車集団のEV「MG4」を分解したうえで、「これこそが大衆のために開発されたEVだ」と評価した。これは、ドイツのフォルクスワーゲンが生産するEVの価格があまり手頃ではないことを意味している。
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