市民の評価を欠いたまま進んだ日本の原子力政策--東洋英和女学院大学学長 村上陽一郎
責任の所在が不明 組織、人事に問題
──事故後の行政の対応にも不満が高まっています。
非常に問題だと思うのは、外交的センスがまったくないということ。外務大臣がどこにいて何をしているのかまったく見えず、作業服を着た枝野幸男官房長官の記者会見の映像ばかりが流されている。
枝野氏がスーツ姿に戻ったことに対して、石原慎太郎・東京都知事が批判したが、私は逆だと思っている。内閣官房長官で、東京にいて震災に関するあらゆる情報を集めて発信する立場にある人が、現場にいないにもかかわらず作業服を着ていることで、海外に誤解を与えた。首都圏もそこまで追い込まれているのかと、心配してメールをくれた海外の友人が何人もいた。小さなことだが、当大学へのヨーロッパやアジアからの留学にもキャンセルが出ている。
権威ある人が権威ある立場で権威ある言葉をもって、大事なメッセージを海外に対して発信するということがなされていない。
--数多くの会見を見ても、国内での原子力の安全に誰が最終的に責任を持っているのか、見えません。
本来は原子力安全委員会がその役割を果たすべきだ。東京電力を規制する当局の一つであり、機能からいってもそう考えてよいはずだ。また原子力委員会にももっと積極的に関与してほしいという気持ちはある。
保安院はその二つの組織よりも後からできて、ダブルチェックの機能を担うとされていた。
私はもともと、保安院が資源エネルギー庁の一部門であることは適切ではない、という指摘をしてきた。ただ、チェック機能といっても、平時における課題と、昨今のような非常時におけるチェックとでは、当然その性質は違う。後者では、通常のマニュアルでは対応し切れないことが、次々に出てくる。その際に十分な機能を発揮し得なかったところに反省点がある。
日本の行政の責任体制については、作業現場からも問題が提起されていた。平時の問題ではあるが、保安院の現場責任者が地域の人々とさまざまな話を交わして了解点が得られても、2年半ほどで人事異動があり、また新しい人物が赴任するので、最初からやり直しということになる点もその一つだった。