市民の評価を欠いたまま進んだ日本の原子力政策--東洋英和女学院大学学長 村上陽一郎

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 PTAは、市民の代表としていろんな属性の人、職業、年齢、性別もさまざまな人が集まり、専門家の意見を聞いたり、自分たちだけで議論を重ねたりしながら、社会的問題への意思表示とする。日本でも地方自治体ではすでに身近な問題において取り入れられている。国政に密着した問題では、裁判員制度が参考になるのではないか。国会・議会の議決と同等のものとして、一般の人たちの良識から導かれた結論を並べる。間接民主主義に直接民主主義を加味して、専門家の手から決定権を取り戻そうというものだ。

--原発推進派が代替エネルギーの開発や新規参入業者の活動を阻んできたともいわれます。

原子力ムラと呼ばれる隠蔽体質があるのは確かだ。原子力のことをいちばん理解しているのは自分たちだという思い込みが強すぎる。今回の事故でも当初は自分たちだけで解決しよう、あるいはできる、という思いがあったように思われる。これは繰り返し指摘されてきたことで、今回もその印象は完全にはぬぐえない。原子力の世界では、15年ぐらい前までリスク評価という言葉すら禁忌だった。電力会社は「絶対安全」という言葉は使ったことがないと言う。しかし、幾重にも安全装置を付けているので安全です、と言い続けてきた。

--科学者の意欲に利権が結び付く形で、市民を抜きにした暴走が起きているという気がします。

現代社会の中では、そうした傾向を完全に排除することは難しい。さらに、利権と結び付くという問題がない場合でも、専門家に任せ切りにすることには大きな問題がある。今の時代の専門領域は非常に細分化されていて、同じ物理学でも隣の学者がやっていることはわからない状況にある。社会的な問題であれば、狭い領域内での専門家の考察だけで結論を出すのは危険なのだ。

むらかみ・よういちろう
1936年生まれ。62年東京大学教養学部卒業。東京大学教授、同先端科学技術研究センター長、国際基督教大学教授、東京理科大学大学院科学教育研究科科長を経て2010年から現職。東京大学・国際基督教大学名誉教授。専門は科学史、科学哲学。『人間にとって科学とは何か』など著作多数。

(聞き手:大崎明子 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2011年4月30日−5月7日合併号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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