栗山氏が感心「大谷翔平のヌートバーへの心配り」 ヌートバーを侍ジャパンに受け入れた経緯

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私の構想では「1番・中堅手」でしたが、当然のことながら調子によって起用法は変わります。チームには「WBCは勝負事なので、打席数を約束することはできません」と正直に伝え、納得してもらいました。

外国で生まれた選手を選出するのは、侍ジャパンにおいて前例のないことです。日本ではほとんど知られていない選手ですし、日本のプロ野球界にも優れた外野手は数多くいます。ヌートバーを選ぶべきかどうか、正直なところかなり迷いました。

自分自身の迷いの原因を探ると、選手の組合せや起用法などの戦略的な部分はもちろんですが、「日本の野球ファンに、果たして彼が受け入れられるだろうか」という気がかりに行き着きます。私自身が批判されるのはまったく恐れていなかったのですが、万が一にでもファンのみなさんの心が離れたら……という不安が、胸とのどのはざまに浮かんでいるのです。

ヌートバーとオンラインで話をすることになった私は、森信三先生の「人間は一生のうちに逢うべき人には必ず逢える。しかも、一瞬早すぎず、一瞬遅すぎないときに」との言葉を自覚しました。画面越しに対面すると、すぐに彼が逢うべき人で、時機に適った出逢いであると実感できました。彼なら日本のファンに受け入れられる、と確信できました。

今日の仕事中に名刺交換をしたあの人が、友だちに紹介されたあの人が、自分にとっての「逢うべき人」なのか。私自身も一つひとつの出会いを意識せずに、何となく対面していることが多い気がします。けれど、ささやかな出会いが人生に影響を及ぼすことがある、と聞きます。

千利休の高弟・山上宗二の『山上宗二記』に、有名な「一期一会」の言葉が記されています。日々の仕事でも、人との出会いでも、一生に一度の機会ととらえて心を注ぐという意味ですが、まさにそういった気持ちで出逢いに感謝し、自分の人生に役立てたいものです。

受け入れる側が心を開く

私自身が、日々心がけていることのひとつです。

宮崎キャンプの期間中に、コーチングスタッフと食事会を開きました。様々な話をしていくなかで、ヌートバーをスムーズにチームに溶け込ませたい、という話になりました。

脇腹の痛みで出場を辞退することになった鈴木は、「ヌートバーの面倒を見てあげられないのが心残りです」と打ち明けていました。鈴木とヌートバーは、ナ・リーグ中地区のチームに所属しているので、多少なりとも接点があります。同じ外野手ということもあり、鈴木はヌートバーを気にかけてくれていたのです。

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