人手不足の外食「店員が辞める・辞めない店」の差 コロナ「5類」移行で客数戻りつつある中での試練
こうした考え方は、従業員を労働力としてのみ扱うのではなく、キャリアアップを支援し、企業の成長に協力してもらうパートナーとしてのゴールを用意する、という姿勢であり、現実にこの体制を整備して以降、従業員の定着率は大きく改善したという。
外食産業は働く人にとって決して楽な仕事ではなく、労働を提供してその対価を得る、という関係だけで長く働き続けることは簡単ではないだろう。学生の時期限定でバイトするとか、夢をかなえるまでの間、生活のために働く、とか期間限定であれば、その間割り切って働くこともできるかもしれない。
しかし、長く働くのであれば、個人としてのキャリアアップにつながると認識できなければ、続けることは難しいだろう。これから売り手市場となる労働環境において、例え時給が相対的に悪くないとしても、「この会社にいても何も得られない」と思われれば、従業員の定着率を高水準で維持できない。
従業員を単なる「労働力」として扱わない
今世紀に入って「賃金は上がらない」という環境が長く続いてきた日本のチェーンストア(外食や小売りといった労働集約的産業のイメージ)は、パート、アルバイト比率を上げることで人件費を抑える、といった考え方で、収益構造を構築してきた。
従業員を「労働力」という言葉に置き換えて、あえてその人間性を見ないようにしてきたチェーンオペレーションという手法自体が、労働環境の変化によって転換を迫られている、というのが昨今の状況の本質なのではないか。労働の対価のみを支払うだけで、従業員を満足させることは困難だ。
人間が地球上の他の動物を圧倒して支配的な存在となったのは、将来価値を計算できるという特徴をもつからという説がある。3歳未満の子供に、お菓子を目の前に置いて、5分食べるのを我慢してくれたら、倍のお菓子をあげます、と取引すると、ほとんどの子が我慢できないのだが、3~4歳以上の年齢になると大半の子が食べるのを我慢して、2倍のお菓子を手に入れるという実験結果があるらしい。
逆に言えば、将来価値を示さなけば、大人は長い間我慢することはない、ということだ。今の時給を上げる提案だけでなく、きちんと、従業員にとっての将来価値を提案できる企業になれるかどうかが、人材獲得競争の明暗を分けそうだ。
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