不朽の名著『夜と霧』が問う「生きることの意味」 究極の絶望で見出した「人生を決める決定要因」

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この話は、浄土真宗の開祖親鸞が『歎異抄』で唱えた悪人正機説を思い起こさせます。

『歎異抄』には、「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」とあります。

これは、「善人(善行によって往生しようとする者)は自己の能力で悟りを開けるが、煩悩に囚われた悪人(善悪の判断もつかない凡人)は仏の救済に頼るしかないのだから、悪人こそが阿弥陀仏に救われる対象である」という逆転の発想です。

また、新約聖書には、『マタイによる福音書』5章の「右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ」や、『ルカによる福音書』6章の「汝の敵を愛せ」などの言葉があります。

これらの教えも、同じような逆転の発想と言えます。

新約聖書から遡ること2000年ほど前に、古代バビロニアの王ハムラビによって制定されたハムラビ法典には、「目には目を、歯には歯を」とあります。普通の感覚からすれば、ハムラビ法典のほうが常識的な判断だと思えるのではないでしょうか。

「発想の転換」が歴史を動かす

しかしながら、浄土真宗にせよキリスト教にせよ、それまでの思考の枠組みを根底から覆す逆転の発想を提示した当時の新興宗教が、その後大きな飛躍を遂げることになったのです。

このように、カントの「コペルニクス的転回」は、その後のヘーゲルの弁証法における「止揚(アウフヘーベン)」と同じように、私たちを取り巻く閉塞感をブレークスルーするうえでの重要な手掛かりとなったのです。

私たちを捉えている思考の枠組みを一回ずらしてみる、外してみる、そして新たな地平線の上で眺めてみるということです。

こうした発想の転換については、もう一度機会を改めて議論したいと思います。

堀内 勉 多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長 

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ほりうち・ つとむ / Tsutomu Horiuchi
 

東京大学法学部卒、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)修了。日本興業銀行(現みずほ FG)、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント代表取締役社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長等を歴任。現在、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長、上智大学知のエグゼクティブサロン・プログラムコーディネーター、一般社団法人100年企業戦略研究所所長、一般財団法人社会変革推進財団評議員、一般社団法人アジアソサエティ・ジャパンセンター理事、ボルテックス取締役会長等。著書に『読書大全』『人生を変える読書』がある。

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