70歳の3人組が高校時代の応援団を再起する日 小説『おかげで、死ぬのが楽しみになった』第1話(3)

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「よし、団の名前を決めようぜ」

「板垣、遺書の謎を考えるのが先だろうよ。巣立が誰の応援をしてもらいたかったのか」

「そんなの最後でいい。人間は名前が9割、中身が2割って言うだろ」

「足したら10割超えてるぞ。十進法に謝れ」

「まあまあ」宮瀬が割って入る。「それで、名前のアイディアあるの?」

「昨日一晩眠って考えた、とっておきのやつがな」

「眠ったのかよ」

私の指摘も意に介さず、板垣は大きく息を吸い込み、その名を口にした。

「シャイニング」

ガタンッと椅子を鳴らし、私と宮瀬は同時に立ち上がった。

ダサい。衝撃的にダサい。当時、目に星が瞬く酸欠現象を「シャイニング」と呼んでいた。でもそれは、何もかもが輝いて見えた青春時代で、英語を使ってみたい盛りのお年頃だったから、許されるのだ。70歳になる老人たちが「シャイニング」なんて名乗ったら、お迎えの光のことだと思われてしまう。

反対せねばと思い、宮瀬を見た。

「シャイニング。美しいね」

まずい。彼らが横文字に目が無いのを忘れていた。これは、若者の感性で「ダサい」と切り捨ててもらうしかない。望みを託し、希さんに視線を送る。

──ほうけた顔をしていた。

希さん、お前もか。カエサルも真っ青の悲劇だ。そういえば、最初に酸欠をシャイニングと言い出しのは、巣立だった。隔世遺伝、恐るべし。

「いい名前だろ。俺らの存在自体が、相手を輝かせるってわけよ」

「よっ、歩くスポットライト!」

宮瀬の声に「余が照らして進ぜよう」と手を振り応え、板垣は腰を下ろす。私も息を整えながら、椅子に深く腰掛けた。

「ただ、再結成するにあたって、1つ問題がある」

「リーゼントにはできない」

板垣が薄くなった頭に手をやった。場にいくらかの緊張が漂う。

「ご存じのとおり、わが団は全員リーゼントってのが決まりだ。しかし毛根の諸事情により、リーゼントにはできない」

「そもそも、なんでリーゼントなんですか?」希さんが尋ねた。

「僕が提案したの」宮瀬が胸ポケットから櫛を取り出す。「顔の作りや骨格や肌の色は、自由に変えるのが難しいでしょ。でも髪型は、伸ばして巻いて逆立てることだってできる。なりたい自分に変わるための、トレビアンな魔法なのさ」

「単に、エルヴィス・プレスリーのファンだっただけだろ」

ただ、宮瀬の説明もまんざらうそではない。初めてリーゼントにしたとき、逆立てた髪の分だけ、強くなれた気がした。ほかの3人と同じ髪型にすることで、私も輝けるのでは、と思った。しかしあの根拠のない自信は、髪の毛と同じように、気づいたときには取り戻せなくなっていた。

「掟を作るなら70歳になったときのことも考えろ、とあの頃の俺に言ってやりたいぜ」

板垣が労るように頭皮をさする。

「フフフッ」

宮瀬が笑いを堪えるように下を向いた。

「なにがおかしい。宮瀬だって、リーゼントにはできないだろうよ」

ハットに隠された頭皮めがけて抗議する。宮瀬も立派な薄毛仲間なのだ。

「ごめんごめん。2人の落ち込みようが可愛くて」

宮瀬はハットをふわりと掴み取り、輝く頭皮を晒した。

「僕、今もリーゼントだよ」

「なにを適当なこと」

「実はね」宮瀬が流麗な手つきでピンクの後ろ髪に櫛を入れる。「リーゼントは、このサイドから後ろに撫でつけた部分のことなんだよ。みんながリーゼントだと思っている、もっこりしたトサカは、ポンパドールと言うのですよ」

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