「俺らは応援団だぞ」
「かっ飛ばせー、健斗っ」
自分たちの絞り出した声が虚しく響く。
「私たちの応援は、もう必要ないんじゃないか」
絶望的な状況に、本音がこぼれる。
「敬遠じゃあ、さすがにかっ飛ばすのは無理だ」
「おい、俺らは応援団だぞ。前を向く選手に、後ろ向きな言葉を吐いていいわけねえだろ」
板垣が真っ赤な顔で睨む。ただその声は苦しげだ。
「でもさ、本当に諦めてないかも」
宮瀬が健斗くんの手元を指した。「バットのグリップを長く持ち変えてる」
「バッターボックスの内側ぎりぎりまで寄ってるぜ」
板垣の声に鋭さが戻る。
健斗くんの目は死んでいない。
それどころか、虎視眈々と獲物を狙う視線は、ぞっとするほどに美しかった。
私は勘違いしていた。
天に与えられた時点で、才能が輝くわけではない。来る日も来る日もしつこく磨き続け、初めて輝きを放つ。天才もまた、泥臭く努力してきた人なのだ。
「応援、まだ必要かもしれないな」
私は喉もとに拳を叩きつけた。むせるような痛みが走り、皮膚の裏側が濃厚な熱を持つ。「声はかれても、情熱はかれてなかった」と今度は口に出してみる。私は背中で両拳を合わせ、肩幅より一足だけ広く足を開いた。
「いっそシャイニングするまで、エンドレスでいいよ」
宮瀬がシャツの袖をまくる。
板垣が右手を天に掲げ、雄叫びを上げる。
「ミラクルホークスのおおお、勝利をねがってえええ、エールを送るううう」
呼応するように、私は咆哮した。
「フレッ。フレッ。ミラクルホークス! フレッ。フレッ。ミラクルホークス!」
絶対に声を届ける。ぶっ倒れるのを覚悟で絶叫した──はずだった。しかし次の瞬間、まわりから上がった「わあ」という歓声に、エールは呆気なくかき消された。健斗くんがバットを投げ出しながらも放った打球が、三塁線ぎりぎりに落ちたのだ。左翼手が捕球する間に、健斗くんは二塁を攻める。滑り込む脚とグラブが交錯し、砂埃が舞った。
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