もう何があったとしても、必死に走ることを、やめはしない。
もう何があったとしても、がんばったことを、恥じたりしない。
私だけが約束を破るわけにはいかないから。
その時、目の前がチカチカと光った。
白内障のせいだろうか。瞬きをして、もう一度目を凝らす。
いや、違う。
キャッチャーミットからこぼれ落ちようとするボールが、ひときわ輝きを放って見えた。
導かれるように、息を吸う。
身体中の熱を喉に集め、一気に放出した。
「周、いっけえ!」
私の予想はやっぱり当たらない。
試合はまだ終わっていなかった。
走れ、走れ、走れ
ボールがキャッチャーの後ろを転がり始める。
周くんは、一塁へ走り出す。キャッチャーに対しピッチャーが「後ろ」と指示する。その間に三塁ランナーがホームベースを駆け抜けた。これで一塁がセーフなら逆転だ。
周くんは腕を振り乱し、足をもつれさせながらも、懸命に地面を蹴る。息は上がり、口は曲がり、白い顔を真っ赤にして進む。
キャッチャーが捕まえたボールを一塁に投げる。
けれど、私は信じていた。
笑われても走ってきた日々が、歩いてでも走ってきた日々が、報われないわけがないだろ。
走れ。
走れ。
走れ。
フェンスに顔をめり込ませ、彼の背中に向かい、叫びつづけた。
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