「人生を負け越してるんだ」
「また勝ち星を逃したー」
ビールをあおった巣立が、苦々しくこぼす。居酒屋の店内の隅に置かれたテレビが、プロ野球のオープン戦の結果を伝えている。今日の逆転負けで、贔屓球団の負け越しが決定したらしい。
「野球ぐらい、いいだろ。こっちなんか、人生を負け越してるんだ」
冗談のつもりだった。でも、見事に私自身を言い表している気がして、苦笑いがこぼれた。
「引間の人生、何勝何敗なの?」
「1勝9敗くらいだな」
「負けすぎでしょ。逆にその一勝は何よ。もしかして、応援団か?」
巣立が身を乗り出し、迫ってくる。
そうだ、と答えようとした。ただあの輝いていた日々も、他の三人が挙げた勝ち星のおこぼれに過ぎない。私は首を振り、「訂正、10敗だ」と言い直した。
「10敗はないだろー」
巣立がつぶらな目を見開いた。ビールの泡を口のまわりにつけたまま、店員におかわりを頼む。
「巣立、世界は断じて不公平なんだ」
「珍しく言い切るね」
「天から二物も三物も与えられる人間がいる分、何も与えられない者もいる。そんな星の下に生まれた人間は、どれだけ努力したところで、報われない」
「引間、努力は裏切らないって」
巣立は、太陽のようにあっけらかんとほほえんだ。
「努力の年末調整がある」
「努力の年末調整?」
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