ヒーローが八人もいて、しかもそのお殿様のお家についてもがっつり書いてたら、全98巻にもなるだろうよ馬琴先生、と苦笑してしまう。むしろ寿恵子の言うとおり、よく完結させたものだ。
八犬士の共通点は、名前に「犬」がつくこと、そして「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の玉を持っていること、そして身体に同じ牡丹の痣があること。……つまりはあの犬がもっていた痣が、八人の犬士たちに分け与えられたのである。八人はそれぞれ出会い、そして里見家のお殿様のために戦うようになる。
江戸時代から明治時代に至る少年少女を夢中にした
ちなみに『らんまん』のなかで寿恵子が読んでいた場面は、「孝」の珠を持つ犬塚信乃と「信」の珠を持つ犬飼現八が戦うシーン。歌舞伎の見せ場になっていたり、歌川国芳が繰り返し描いたり、その弟子である月岡芳年も描いたりと、江戸文化のなかでメディアミックスされ続けた名場面である。
互いに八犬士である犬塚信乃と、犬飼現八は、お互いが仲間であることを知らずに出会ってしまう。罠にはまってしまい追われる側になった信乃と、捕まえる側である現八。ふたりは、灼けるように熱い、「芳流閣」という建物の屋根瓦の上で、睨み合うのだ。
そして、義兄弟であることを知らずに戦うことになるふたり。戦いの末、彼らはふたり揃って、瓦の上から、川に落ちてしまう――。
……今風にいえば、なんともBL的展開である。『らんまん』の寿恵子が夢中になって読むのもよくわかる名シーンだ。
このように『南総里見八犬伝』には、数々の名場面が描かれ、そして寿恵子のように江戸時代から明治時代に至る少年少女を夢中にした。ちなみにシェイクスピアの作品を翻訳したことで知られる坪内逍遥もまた、『南総里見八犬伝』の大ファンだったらしい。坪内逍遥らしき人物が『らんまん』には登場しているため、今後寿恵子とともに馬琴について語ることもあるかもしれない。
それにしても『南総里見八犬伝』は、半年かけてひとつの物語を作り上げる朝の連続テレビ小説も驚きの大長編。たくさんの名場面があるなかで、「よくこの長い話を完成させたなあ」とたしかに驚いてしまう。未完の大作になってもおかしくなかった作品だ。しかし寿恵子の言うとおり、完結したからこそ、歌舞伎をはじめとしたさまざまなメディアミックスに登場することもできたのだろう。そういう意味で、『らんまん』もまた、『南総里見八犬伝』の魅力を伝える作品のひとつになっている。
ぜひ朝ドラきっかけに『南総里見八犬伝』に興味を持った人は、文学としての『南総里見八犬伝』にも触れてみてほしい。
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