従兄弟の尾高惇忠の一線を画す指導
渋沢が読書に夢中になりすぎて、両親からたしなめられたことは前回書いたが、それだけ本にのめり込んだのには理由がある。幼き渋沢に「本の読み方」を伝授した男がいたのだ。
男の名は、尾高惇忠(おだか・じゅんちゅう)。皆からは「新五郎」と呼ばれていた。惇忠の母・やへは渋沢の父、渋沢元助の姉にあたる。つまり、渋沢と惇忠は従兄弟だった。もともと、渋沢は漢文の読み方を父から教わっていたが、あるときにこう言われた。
「今後、読書の修業は私が教えるよりは、手計(てばか)村へいって尾高に習う方がよいだろう」
学問に優れた惇忠は自宅で塾を開いており、地元では、立派な先生という扱いを受けていた。手計村は、渋沢の自宅から数百メートル隔てた場所にある。以来、渋沢は毎朝、10歳年上の従兄弟、惇忠と一緒に3~4時間、書物を読むことになった。
惇忠の教育法は、従来よく行われていた漢文読解の指導とは、一線を画していた。
「漢文を丁寧に読ませて、暗唱できるまで繰り返す」。それがスタンダートな指導法だったが、惇忠は違う。本人が面白いと思う本を自由に読ませるようにしていたのである。
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