「となりのトトロ」誕生秘話とジブリ苦闘の歴史 公開を反対され、スタッフ確保に奔走もした
もう1人、両監督から参加を要請されたのが、色彩設計の保田道世。東映動画の仕上課で仕事を始め、労働組合の活動を通じて高畑・宮﨑と知り合いになったという、古い仕事仲間の一人だ。『アルプスの少女ハイジ』『未来少年コナン』などでもともに仕事をし、『ナウシカ』『ラピュタ』にも参加していた。
結局、保田については、鈴木、原、高畑、宮﨑、それに保田の5人で会議が開かれ、保田は『火垂るの墓』をメインに担当し、『トトロ』は主な色彩設計をした上で、色指定のスタッフをもう1人立てることで解決した。
新たな試み「茶色のカーボン」に苦闘
『となりのトトロ』『火垂るの墓』ともに新たな試みとして、キャラクターなどの輪郭線に茶色が使われている。普通のアニメでは、動画の線をセルに転写する場合、黒のカーボンを使うため、輪郭は黒い線で縁取られている。しかし、黒い輪郭線は『トトロ』や『火垂るの墓』の世界に馴染まないだろうということで、もっと背景に馴染む茶色の輪郭線を採用することになったのだ。
茶色の輪郭線は予想通りの効果をあげたが、一つ誤算だったのは、まだカーボンの性能がそれほどよくなく、動画の線が転写されづらいことだった。当初は、マシンがけ(動画からセルへの線の転写)以降の作業を外注の仕上げスタジオに出す予定だったが、外注先のトレスマシンでは、茶カーボンをうまくトレスすることができず、結果的にほとんどのマシンがけをジブリ社内で行わざるをえなくなった。
また、カーボンそのものの性能もこなれておらず、線の転写がうまくいかなかったり、転写後にカーボンをはがそうとすると一緒に線もはがれてしまうなどのトラブルも、当たり前のように起こった。
そのためマシンがけを担当した制作スタッフの間では、「マシンがけをし終わったセルに息を吹きかけて急速に冷却するとカーボンがセルに固定されやすい」とか「薄い線のところはゆっくり、濃い線のところは素早くはがすとカーボンが残りやすい」などというさまざまなテクニックが開発されることになったという。