人気映画「RRR」で描かれた激動のインド近現代史 イギリス植民統治下での激動の独立闘争を描く
インド映画『RRR』の大ヒットが続いている。55億ルピー(約95億円)というインド映画史上最高額の制作費をかけたこの作品は、2022年3月に本国で封切りが始まり、アメリカをはじめ各国でも上映され、好評を博している。劇中歌「ナートゥナートゥ」は、2023年1月にゴールデングローブ賞、3月にはアカデミー賞の歌曲賞を受賞した。
日本でも2022年11月公開直後から大きな話題を集めた。興行収入は2023年5月中旬で20億円を突破したという。東京では、『RRR』の世界にひたれるというコラボカフェまで登場した。
筆者も5月末に訪れてみたが、店内には作中にも出ていたインドの旗(後述)が何枚も掲げられ、壁のディスプレイにはハイライトがエンドレスで流れる中、登場人物やストーリーに着想を得た料理やドリンクが提供されていた。
勢いは止まらず、7月28日からは日本語吹替版の上映が始まるという。これまでも日本でインド映画が話題になることはあった。1998年に公開されて奇抜なダンスとストーリーが注目された『ムトゥ 踊るマハラジャ』、2013年公開でインド理系名門大学を舞台とした青春群像劇『きっと、うまくいく』はその代表例と言える。
その次に熱狂的に支持されたのが、『RRR』と同じS・ S・ラージャマウリ監督による『バーフバリ 伝説誕生』と『バーフバリ 王の凱旋』だ(いずれも2017年公開)。
インド映画の知名度を高めた『RRR』
しかし『RRR』への反応は、過去のインド映画と比べて桁違いに大きい。以前はどちらかと言うと限られた層が見ていたインド映画が、一気に大衆化した感があるのだ。筆者も、初対面の人に自分がインドについて研究していることを話すと、相手から「『RRR』見ましたよ」と言われて会話が盛り上がったことが何度かある。
この『RRR』、ド派手なアクションや主人公2人の友情、「ナートゥナートゥ」の歌とダンスと、予備知識なしでも3時間の上映時間があっという間に感じられる作品だ。ただ、『バーフバリ』シリーズが架空の古代インド王国が舞台だったのに対し、『RRR』はイギリスによる植民地統治下という、現代に近い時代設定になっている。
古代インドの二大叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』がストーリーの中で重要な意味を持っていることはよく取り上げられるが、反英植民地闘争の歴史が随所に織り込まれている作品でもあるのだ。
そこで、本稿では『RRR』で描かれる時代背景や登場人物、象徴的アイテムについて、インド独立闘争史の観点から解説していくことにする。なお、本稿は作品終盤の内容にも触れるなどから「ネタバレ」を含んでいるため、まだ見ていない読者は十分ご注意いただきたい。
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