人気映画「RRR」で描かれた激動のインド近現代史 イギリス植民統治下での激動の独立闘争を描く
作品前半のハイライトのひとつに、川の上で火に囲まれた少年をラーマとビームが橋を降りて救出するシーンがある。このときビームは緑・黄・赤の三色旗を手にしているのだが、あれはいったい何の旗だろうと思った観客も多いのではないか。
現在のインドの国旗はサフラン(オレンジ)・白・緑の三色旗で、中央にチャクラと呼ばれる法輪が描かれたデザインだ。この国旗は独立直前の1947年7月に採用されたもので、それまでの植民地時代にはさまざまな旗が存在した。なかでも1906年、最初に考案されたナショナル・フラッグ(当時は独立していなかったので、「国旗」というより「民族旗」と呼ぶべきか)が、ビームが持っていた旗なのだ。
緑の上段には白いハスの花が8つ並んでいるが、これは当時のインドの8州を表している。黄色の中断には、デーヴァナーガリー文字で「ヴァンデー・マータラム」と記されている。「母なるインドに栄光あれ」という意味で、解放運動の中で歌われるようになった歌のタイトルだ(さらに詳しい背景があるが、ここでは割愛する)。
この歌は、現在でも「ジャナ・ガナ・マナ」に次いで第2国歌と位置づけられている。この旗は「ヴァンデー・マータラム・フラッグ」と呼ばれるのはこうした背景がある。赤の下段の左にあるのは三日月、右にあるのは太陽だ。こうした背景を持つ旗を象徴的に用いることで、民族運動を称えるメッセージを伝えようとしたのではないか、と感じた。
独立の父・ガンディーはなぜ出ていない?
大活劇の後にはエンドロールが流れるが、これがまた非常に興味深い。エンディング曲「エッタラ・ジェンダ」が流れ、ラーマやビーム、シータらが踊る背景に、8人の英雄の肖像画が次々と登場するのである。
最初に出てきた人物を見て、「やはりそうきたか」と筆者は思った。軍帽を被り、丸眼鏡をかけたインド人男性——スバース・チャンドラ・ボースだ。インド国民会議派の有力リーダーで、武力闘争によるインド解放を訴えていた。
結局ガンディーと袂を分かち、国外に脱出。日本と協力し、「自由インド仮政府」を樹立した。最高司令官を務めた「インド国民軍」は、1944年に日本軍によるインド侵攻作戦「インパール作戦」に参加したことでも知られている。近年のナショナリズムの高まりを受けて、インド国内ではボースを再評価する動きが盛んだ。
2番目には、白髪の老人が現れる。これはヴァラッバーイー・パテール。インド国民会議派の有力指導者のひとりで、1947年のインド独立後には初代内相兼副首相を務めた人物である。「インドの鉄の男」の異名をとり、独立達成後、各地の藩王国のインド編入に大きな役割を担った「豪腕政治家」だ。他にも、勇敢な行動で知られる指導者がスクリーンに続々と現れて、筆者は文字通り息をのんだ。
その一方で、別の意味で「やはりそうか」という思いもあった。それはマハートマ・ガンディーの不在だ。インド独立運動を象徴する存在の彼がなぜ取り上げられないのか。実はこのエンドロールだけでなく、作中全体でもガンディーについての言及はいっさいない。
作中ではビームが一瞬、非暴力に目覚めるのではというシーンがあったが、結局彼はそちらのほうには向かわなかった。この点についてラージャマウリ監督はアメリカ誌『ニューヨーカー』のインタビューで、「ガンディージーの肖像を入れなかったからといって彼を軽視しているわけではない。ガンディージーには絶大な敬意を抱いている」と語っている(「ジー」は「〜さん」を意味する敬称)。
確かにガンディーが出ていないことより、これまであまり知られてこなかった、各地方の指導者に光が当てられている点のほうが重要と言えるかもしれない。主人公のラーマとビームは、まさにそれを象徴する存在なのだ。
いかがだっただろうか。本稿を通じて、まだ見ていない読者にはぜひ劇場に足を運んでもらいたいし、すでに見た読者にも「もう一度」見て細部に至るまで楽しんでもらいたいと思っている。筆者もこれまで2回見たが、近いうちに3回目に行こうと思っている。
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