私は、パウエル議長は気の毒だと思う。まず「インフレを見誤った」と攻撃されているが、それを言うなら、パウエル議長が2021年に引き締めをしなかったときに攻撃すべきだろう。
パウエル議長に怒りがぶちまけられる理由
あのときには、大多数が納得していた。むしろ、株式市場をはじめとして、投資家たちは「資産価格が下落しないよう、早まった引き締めに走らないように」と牽制していたはずだ。ロシアのウクライナ侵略後も、「これはただの一時的な供給ショック、一時的な資源価格の高騰だから」と、利上げに反対する向きもあった。
しかし、FEDはやや手遅れではあったが、2021年と違って2022年は、そのような「投資家ポピュリズム」に屈せず、毅然として緊急事態対応の利上げを行った。1つ目のミスは犯したが、2つ目はしなかった。
そもそも、2021年から2022年のインフレをほぼ誰も予想していなかった。渡辺努・東京大学教授を除いては。しかし、今それが賞賛されているということは、ほかは全員「インフレは一時的、コロナでデフレになる」と言っていたのだ。
そして、現在の金利引き上げ、長期引き締め維持は、どう見ても必要なことであり、年内利下げを望む投資家たちはどうかしている。駄々っ子よりもひどい。
もちろん、パウエル議長はすばらしかったとは言えない。だが、平均的な市場関係者よりははるかに適切な判断をしており、毅然と行動している。だから、ほめることはできないが、攻撃する必要もないはずだ。
では、なぜ、投資家たち、とりわけアメリカの投資家たちはパウエル議長に怒っているのか。それは、金融引き締めをしているからである。
一方、日本では植田総裁はなぜ攻撃されないのか。引き締めていないからである。投資家に甘いハト派であれば、彼らは文句を言わないのである。ただ、それだけのことなのだ。
「ECBは引き締めているではないか」と言うかもしれない。だがインフレの度合いに比べれば、ハト派といえるぐらいの引き締めだ。何よりも、欧州は実体経済がそもそも脆弱すぎて、引き締めに耐えられない。だから、投資家たちも本来よりも甘い引き締めなので、文句を言わないのだ。
さらにいえば、ECBが引き締めようが何をしようが、世界的に見れば影響は限定的だからだ。もはや英国の中央銀行であるイングランド銀行が何をしようが、誰も関心がない。ECBはそこまでノーマークではないにしても、FEDがどう出るかが世界のリスク資産市場のすべてを決めるので、攻撃するエネルギーはFEDへ集中投下しているのである。
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