「核家族での子育て」が大変である進化論的な理由 ヒトの進化史を踏まえた理想的な子育てとは

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愛着理論で問題なのは、核家族は親の1人が育児を担当してもう1人が働くことに重点を置いているが、これはさまざまな文化のなかでも、広い視点で歴史や進化を考えた場合にもきわめて珍しいということだ。

母親は子どもにとってかけがえのない唯一の養育者であるという考えは、現代の欧米の文化的なイデオロギーであり、科学的な根拠のある義務ではないのである。

調査が明らかにしたこと

この見解を裏づける確かなデータがある。1991年から2007年にかけて、アメリカの国立小児保健発達研究所が1000人を超える子どもを対象に調査した。

調査はそれぞれの子どもが生後1カ月の頃から9年生〔日本の中学3年生〕になるまで続けられた。そのなかには保育所に通った子もいれば、母親にだけ育てられた子もいる。

この調査の主な結論ははっきりしている。保育所に通った子どもと、家で一方の親に育てられた子どもとで、発育に差は認められなかったのだ。

同様に、2003年から2006年にかけて1400人を超すフランスの子どもを対象に行なわれた研究では、優れた保育所に通った子どもは、母親だけに育てられた子どもよりも感情と品行に関する問題が少ないことがわかった。

これはひょっとしたら、保育所に通った子どもは同年代の子どもやほかの大人と交流する機会が多かったからかもしれない。

これらの研究は母と子の絆の重要性を軽視するものではないし、子どもの健全な情緒的発達を確実にするうえで母親が何の役割も果たしていないと言っているわけでもない。

これらの研究は育児をもっと広い視点でとらえ、複数の養育者や関係を取り入れるように促すものだ。

それは、ヒトがきわめて社会的かつ協力的な種として進化してきた長い歴史をもっと踏まえて考えるということである。

(翻訳:藤原多伽夫)

ニコラ・ライハニ 進化生物学者

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Nichola Raihani

英国王立協会の大学研究フェローで、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの進化論・行動学の教授。同大学の社会進化・行動研究所のリーダーも務める。人間を含めた生物の社会的行動の進化が専門。科学誌に70以上の論文を寄稿し、その研究成果に対して2018年度フィリップ・リーバーヒューム賞(心理学部門)が授けられた。2018年には英国王立生物学会のフェローに選出される。本書が初の著書。詳しい研究内容については以下を参照。www.seb-lab.org

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