この点で言うと、ヒトは例外的な存在だ。ヒトは1度に1人しか産まないことが多いし、ヒトの繁殖スケジュールは子の数よりも質を優先しているように思える。
前述したように、1人の子を身ごもるだけでもヒトの女性には代謝上の重荷がのしかかるから、(協力的繁殖を行なうほかの霊長類のように)双子を産む確率を高める変異を受ければ、それぞれの胎児が受け取る栄養分が減るか、胎児は妊娠した母親が与えきれないほどの大きな栄養や労力を要求するだろう。
私たちは助けを利用するうえで異なるルートを選択した。1度に産む子の数を増やすのではなく、単に出産の間隔を短くしたのだ。
現代の狩猟採集社会では、出産時に助力が得られる母親は、子どもが離乳したらすぐに次の子を妊娠することができる。ヒトに近縁の類人猿よりおよそ2倍も速く繁殖できるということだ。
チンパンジーの場合、出産の間隔は6年ほどあるが、狩猟採集民の女性は3年ほどの間隔で出産(および子育て)することができる。
したがって、協力的繁殖を行なうことにより、ヒトの母親はきわめて質の高い子どもを比較的多く産めるようになり、子どもの質と数のどちらかを犠牲にしなければならないという問題を解決することができた。
複数の保護者による子育て
協力的繁殖を行なうというヒトの性質は、人間の社会と子育ての規範を理解するうえで重要な点を伝えている。
社会的な生活様式をもっているということは、ヒトが地球上に出現してからほとんどの期間、母親は広大な社会的ネットワークに組み込まれ、子どもは父親、年長のきょうだい、おば、おじ、祖父母といった複数の保護者に育てられてきたことを意味する。
現代でも多くの人間社会ではこのような暮らしが見られるものの、多くの工業化社会では、大規模な拡大家族の役割は、学校や保育所といったより公的な施設が(ある程度)担うようになった。
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