「子どもの弱視見逃し」は"脳の発達に影響"の深刻 3歳児健診での早期発見・治療が必要な理由

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日本眼科医会 乳幼児・学校保健担当常任理事の柏井真理子氏(京都市の眼科柏井医院院長)は、「弱視を見逃した母親は悪くない。そもそも3歳児健診の眼科検査の仕組みに問題がある」と指摘する。そこで日本眼科医会は3〜4年前から、市区町村の3歳児健診に目の屈折異常を専用の機器で容易に測定できる「屈折検査」を導入するよう、国をはじめ関係団体や都道府県の眼科医会に働きかけてきた。

柏井氏によると、3歳児健診での視覚検査は1997年度から市区町村が担当し、1次検査は家庭で行われる。保護者は、「ランドルト環」といってアルファベットの「C」の文字のような円の一部が切れた図形による検査で子どもの視力を判定し、アンケート(問診票)に回答する。

左右いずれかの視力が0.5未満の場合は、市区町村の保健センターなどの2次検査会場で再度、保健師などによる視力検査を受ける。しかし、家庭で視力検査がうまくできたと判断された場合は視覚検査が原則、そこで終了してしまう。

視力不良の場合以外にも何らかの事情で家庭での視力検査ができなかった場合は2次検査会場で視力検査を受ける。そこで左右いずれかの視力が0.5未満の場合やアンケートから何らかの異常が疑われる場合には、眼科精密検査受診票が交付され、医療機関での3次検査(精密検査)を受ける。3歳児健診の眼科検査について柏井氏は次のように話した。

「1次検査は保護者が行いますが、3歳児の自覚的な検査なので不確実であり、多くの弱視を見逃すリスクがあります。さらに精密検査の受診を指示されても保護者の危機感が薄く、約4分の1が眼科を受診していないことも弱視などの見逃しの原因です」

「弱視の見逃し」は脳の発達にも影響する

ランドルト環による視力検査は「見え方」を確認するために行う自覚的な検査だ。一方、機器を使った屈折検査は、遠視や近視、乱視など目のピントのずれを他覚的に計測し、弱視の原因となりうる強い屈折異常が把握できる。

さらには現在、健診で広く活用されている屈折検査機器は、眼内に外からの刺激を妨げる疾患の存在を見つけることができる他覚的スクリーニング検査でもある。柏井氏は「両方やる必要がある」と強調する。併用することの有効性については、すでに屈折検査を導入している地域で成果が表れている。

全国のトップを切って2017年に全県導入を果たした群馬県の事例では、屈折検査導入前の2016年度は2次検査までで「要精密検査」とされたのがわずか1.3%だったのに対し、導入を経て2018年度に調査したところ、「要精密検査」は12.9%と10倍増の検出率に向上した。

2次検査で屈折検査を実施すると、「異常あり」は9.9%見つかっていた。その結果、全受診者のうち要治療率は 2.3%となり、屈折検査導入前の 2016 年度の要治療検出率 0.1%と比べて大きく改善した。つまり今まで見逃されてきた弱視が3歳児健診でしっかりと発見されるようになったのである。

日本眼科医会は全国調査を実施し、厚生労働省(厚労省)に全国の現状と屈折検査の有効性を示し、弱視見逃しのリスクについて対策を講じるよう働きかけたところ、2022年度から自治体の屈折検査機器購入において半額を国が補助することになった。これが原動力となって全国で3歳児健診に屈折検査を導入する市区町村は増え、2022年度内に全国の市区町村の77.9%が屈折検査を導入している。

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