「子どもの弱視見逃し」は"脳の発達に影響"の深刻 3歳児健診での早期発見・治療が必要な理由

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ハード面の充実で「弱視見逃し」のリスクはかなり改善されたが、それでも柏井氏は「保護者に必要性が理解されなければ『要精密検査』と言われてもスルーしたり、治療に後ろ向きだったりするケースがある」と警鐘を鳴らす。

「保護者は『自分も眼鏡をかけているから、目が悪いのは遺伝のため。子どもには大きくなってから眼鏡かコンタクトで矯正すれば大丈夫』と思っている方が少なくありません。しかし、目と脳の発達が結びついて視覚から入ってきた情報を処理する能力として視力を捉え、弱視の見逃しは脳の発達にも影響すると知ってほしいのです」

2023年はおおむね10年に一度の母子手帳の改定の時期だったので、母子手帳に「屈折検査」という文言を入れるよう日本眼科医会として働きかけた。

また、柏井氏は2022年度に厚労省の国庫補助金により株式会社キャンサースキャンが実施した「3歳児健康診査における視覚検査の実施体制に関する実態調査研究」で座長を務めた。この取り組みでは、全国の実態を踏まえて、検査を担当する自治体向けの手引書や事例集、保護者向けの啓発リーフレットを作成している。

弱視見逃し
「弱視見逃し」に警鐘を鳴らすリーフレット(画像:キャンサースキャン提供)

柏井氏によると、全国のトップを切って屈折検査導入100%を果たした群馬県は、眼科医会が市町村の健診の担当者を集めて研修し、一丸で取り組んだ。「弱視見逃し」が起こった子どもの保護者がどれほど後悔したかを伝え、「3歳で見つけてなければ子どもの人生に影響する」という危機感を共有した。

発達障害の子や海外にルーツのある保護者にも情報提供

何らかの事情で家庭での視力検査ができないこともある。例えば発達に遅れがある子どもの場合は、ランドルト環による検査の指示を理解できないかもしれない。柏井氏は「だからといって『学校に上がるまで視力検査は無理』と諦めず、そういうケースこそ他覚的な屈折検査によって目の疾患の見逃しを防いでほしい」と話す。

また、海外にルーツのある保護者に向けた情報提供ツールとして、英語・中国語・ポルトガル語に翻訳した案内文を作成した。

「障害のある子、海外にルーツを持つ子こそ、屈折検査を受けに来てほしいです。視力が発達すればコミュニケーション能力も上がります。目からクリアな情報が入ると、知能や心身の発達にも必ずいい影響があります。遠慮せず眼科に来ください」

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