「子どもの弱視見逃し」は"脳の発達に影響"の深刻 3歳児健診での早期発見・治療が必要な理由

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柏井氏は、弱視を治療している子どもの保護者から「『幼い時期から眼鏡をかけるなんて、テレビやゲームのし過ぎを放置して目が悪くなったの? 親の責任では?』などと言われて傷ついた」という声を何度も聞いた。

しかし、弱視は早期発見・早期治療で視力は獲得できる疾患であり改善するし、そもそも発見の遅れは制度の限界であると強調する。治療が難航する遅い時期に弱視と診断されて「青天の霹靂」と泣き崩れた保護者に落ち度はない。

子どもの目の日
「6月10日はこどもの目の日」をPRするポスター(画像:日本眼科医会提供)

そのうえで「弱視治療の眼鏡をかけている子どもや、アイパッチをして弱視訓練をしている子どもに出会ったら温かく見守ってほしい。そのためには見守る大人や社会の理解が必要」とし、「6月10日は『こどもの目の日』」とした理由を次のように述べた。

「なぜ6月10日かと聞かれれば、『6歳で視力1.0』を実現するため。弱視を3歳児健診で見つけて治療してほしいのです。こども家庭庁が『こどもまんなか社会』の実現を目指すように、子どもの目の健康も社会の大人全員の見守りが不可欠です」

眼科園医を置いている幼稚園・保育所は1割程度

また、柏井氏は「幼児教育・保育の現場でも弱視見逃しのリスクを知ってほしい」と話した。ランドルト環の視力検査は幼稚園で5~6割、保育所でも3割程度は実施しているが、すべてではないので保護者による1次検査とのクロスチェックにはなっていない。

保育所嘱託医または園医として眼科園医を置いているところは1割程度で、子どもの目の健康について専門医が正しい知見を踏まえて啓発している幼稚園・保育所は少ない。

「片方の目がほとんど見えていない子が成人し、事故などで見えている目を失明したら仕事や生活に支障をきたします。地域の眼科医、健診に携わる看護師や保健師、教員や保育士、保護者ら子どもに関わる大人は全員が子どもの将来を見据え、目の健康を守る意識を持ってほしいのです。3歳児健診で屈折検査が実施されていない残り2割の市区町村では行政に導入を働きかけてください」

「6歳で視力1.0」が実現できても人生は長い。昨今、生活のデジタル化などによって近視が増えており、近視は歳を重ねると緑内障や網膜剥離のリスク要因となる。だからこそ、6歳以降はゲームをする時間を制限し、手元を見る距離を30センチは必ず確保すること、外遊びも積極的に取り入れるなど、“目を酷使しない生活”を送る必要がある。子どもの目の健康は、社会の大人が目を凝らし、見守ってこそ実現する。

若林 朋子 フリーランス記者
わかばやし ともこ / Tomoko Wakabayashi

1971年富山市生まれ、同市在住。1993年から北國・富山新聞記者。2000年まではスポーツ全般、2001年以降は教育・研究・医療などを担当。2012年に退社し、フリーランスの記者に。雑誌・書籍・広報誌やニュースサイト「AERA dot.」、朝日新聞「telling,」「sippo」などで北陸の話題・人物インタビューなどを執筆する。最近、興味を持って取り組んでいるテーマは、フィギュアスケート、武道、野球、がん治療、児童福祉、介護など。

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