トランクコーヒー、喫茶王国・名古屋に挑む

東海地方のコーヒーシーンの台風の目に

ソファの配置にもこだわりが

店の奥にはプロバット社の焙煎機を設置し、お客が間近でコーヒー豆をローストする光景を見て楽しめるように、営業時間内に焙煎を行っている。

午前中に来店するのは、一日をおいしいコーヒーで気分よくスタートしようと考える人々だ。だが、その数はまだ多くはない。お店が活気づくのは午後になってからだ。老若男女が入れ替わり立ち替わり訪れて、好きなソファに腰をおろし、顔見知りに声をかけたり、鈴木さんや田中さんと会話を楽しんだりする。

おいしいコーヒーが人をつなぐ

おいしいコーヒーからは良いつながりが生まれる。それが鈴木さんの信条だ。そのためにソファの配置も工夫した。日本の飲食店の多くは、お客がそれぞれ独立して過ごせるように椅子を背中合わせに並べ、空間を仕切って半個室的にする。トランクコーヒーでは、みんなでひとつの空間を共有するように、壁に沿ってソファを横に並べている。隣に座った人同士、何気ない会話も生まれやすい。

人と人との間に垣根を作らないこと。情報をオープンにすること。鈴木さんがデンマークで実感した魅力である。

「北欧でコーヒーの仕事をしている人々はとにかく優しくて、アジア人の僕を差別することは一切なかった。寒さが厳しいので助け合わなければ生き抜けなかったという歴史的背景があり、隣人と協力して幸せになろうとする国民性なんです」

バリスタたちが情報を共有しながら成長をめざしてきたことが、北欧をコーヒー先進国にしたのだと鈴木さんは言う。

共同経営の田中聖仁さん(左)と鈴木さん(右)

鈴木さんは公務員の両親のもとに生まれ、つねに「みんなと同じようにしなさい」と諭されながら育った。それに反発して、ほかの人がしないこと、前例のないことをしたがるひねくれ者になったのだと笑う。

大学時代には1年間休学して世界各国を旅したこともある。中米では強盗に拳銃をつきつけられるピンチに見舞われたが、念のためすぐ出せるようポケットに用意していたお金を渡して難を逃れた。「日本の常識がほかの国では通用しないことに衝撃を受けた。それでも、生きてさえいればなんとかなる。その経験から、白か黒か、楽しいか楽しくないか、やりたいかやりたくないか、まず極論を考えてから緻密に計画するようになった」

大手旅行代理店勤務後「とにかくヨーロッパで生活したい」と、地中海のマルタ共和国へ渡る。さまざまな仕事をしながら4年ほど暮らすうちに、ヨーロッパ各地の日常に密着したカフェ文化に触れ、カフェを開きたいという気持ちが芽生えた。

「そのためにはまず、最高のお店で最上級の技術と知識を身につけたいと、浅はかなことを考えて調べてみたら、世界バリスタチャンピオンを最も多く輩出している国がデンマークだった。じゃあそこに引っ越そうと単純に考えたんです。でも、移住していざ学び始めたら、コーヒーは終わりのない世界だった」

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