歌舞伎界「世間離れした慣習」でエンタメ界に激震 「猿之助騒動」でスター誕生も映画は公開延期に

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当代一の女形と言われる坂東玉三郎は14代目守田勘弥の部屋子となり、その後、養子となって5代目坂東玉三郎を襲名した。ラブリンの愛称までついている片岡愛之助は一般家庭に生まれ、子役として活躍するなかで13代目片岡仁左衛門に見いだされて片岡一門の部屋子となり、のちに2代目片岡秀太郎の養子となって、6代目片岡愛之助を襲名した。若い世代では、中村莟玉(かんぎょく)が4代目中村梅玉の養子、中村鶴松が18代目中村勘三郎の部屋子となり、歌舞伎俳優となっている。

これらは歌舞伎を生業とする家に生まれなかった子どもがその才を見いだされるケースだが、戦後は、一般家庭の子として生まれても歌舞伎俳優になれる制度も作られた。国立劇場などを運営する独立行政法人日本芸術文化振興会の国立劇場伝統芸能伝承者養成所だ。歌舞伎俳優養成コースがあり、1970年に始まった。応募資格は中学校卒業以上23歳までの男子で、研修期間は2年間だ。受講料無料、宿舎の貸与や補助もある。現在、約300人の歌舞伎俳優がいるが、約3分の1をここの卒業生で占める。

ただし、歌舞伎俳優として活躍するためにはそれだけでは不十分だ。いずれかの幹部俳優(旦那)に弟子入りして、芸名をもらう必要がある。また入門後、歌舞伎の世界の礼儀作法やしきたりなどに慣れ、セリフの無い役や立ち廻り、後見や付き人などとして役者修業をする。

このあたりが、歌舞伎以外の俳優の道と違うところだ。俳優や歌手、芸人も師匠の世話人や運転手を務めながら芸を磨いていくこともあるが、歌舞伎はそれが制度、慣習として徹底している。そこに上下関係、絆が生まれ、家族のような運命共同が築かれるが、信頼関係が崩れたときに「破門」となったり、ハラスメントが起こる可能性がある。

筆記・作文・実技の審査も

歌舞伎俳優が組織する日本俳優協会が名題資格審査(名題試験)を実施している。歌舞伎俳優の身分制は時代によって変遷してきているが、現在は「名題役者」と「名題下」に大別されている。名題役者という呼称は、江戸時代に、芝居小屋の正面に掲げられた名題看板(演目の題名を記した看板)の上部に、主要な役者の芸名と紋を載せたところから来たといわれている。

歌舞伎界に入門して10年以上で幹部俳優の推薦を受けた役者が、日本俳優協会の名題試験を受験することができる。筆記・作文・実技の審査に合格して「名題適任証」を取得する。

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