歌舞伎界「世間離れした慣習」でエンタメ界に激震 「猿之助騒動」でスター誕生も映画は公開延期に
興味深いのは、受験に旦那の推薦が必要とされ、また合格した場合も、あくまで適任であることの証に過ぎないということだ。実際に名題役者になるのには、「諸先輩やご贔屓、興行主など、関係方面の賛同を得て、名題昇進披露を行う必要があります」(Kabuki on the web)ということだ。幹部俳優を頂点とした家制度を骨格として現代的な制度を導入したシステムが現在の歌舞伎界なのだ。
しかしながら、前述のように世間の常識とは違う歌舞伎界の慣習がいまだに残っている。最近、ネット上では「歌舞伎界は『治外法権』」といった文言も見られる。テレビ業界だと、NHKは受信契約者の意向に敏感だし、民放はスポンサーの意向を気にする。不祥事を起こした役者をテレビ番組や広告で起用し続ければ、スポンサー企業のイメージダウンや不買運動の懸念があるからだ。
その点、演劇はお金を払って観たい人だけが観に来るので、ハードルは低いとされ、歌舞伎はさらに低い。それはそれで構わないと言えるが、猿之助の件では歌舞伎界以上に映画界が頭を抱えている。映画もお金を払って観るものだが、テレビ局やスポンサーとのつながりが深かったり、観衆の数が演劇とは圧倒的に違うので、世間の批判には演劇以上に敏感だ。
歌舞伎俳優の起用に慎重になる?
猿之助は今月6月の歌舞伎座公演昼の部の「傾城反魂香」に出演予定であったが、中村壱太郎が代役に立てられ公演は行われている。代役さえ決まれば、興行は続けられるのが演劇の特徴だ。といっても主役級の役に急遽代役を立てることは容易ではないが、前述のとおり、歌舞伎俳優は世襲制の修業の中でそれができてしまうのだ。
一方、映画はたいへんだ。撮影途中や撮影後に主役級の役者に不祥事があれば、最悪、公開中止に追い込まれたり、撮り直しという事態になる。撮り直しも複数の役者が絡むシーンが多数あれば簡単ではない。猿之助は6月16日に公開予定だった映画『緊急取調室 THE FINAL』に内閣総理大臣役で出演していたが、東宝は公開延期を発表した。
近年、歌舞伎俳優が映画やテレビに起用される機会は多く、人気を博してきた役者も多い。それがまた歌舞伎への注目を集めることを期待する関係者も多いだろう。しかし、その流れが大きく変わることを予想する向きもある。
歌舞伎俳優のスキャンダルが「治外法権」で片づけられる時代ではなくなり、週刊誌も歌舞伎俳優を狙っているなかで、それがいつ表に出るか分からないとなると、テレビ局や映画会社は怖くて歌舞伎俳優の起用には慎重にならざるをえないということのようだ。
歌舞伎界の伝統が世界的にみて特異な演劇スタイルを形成し、家の芸を継承するなかで突然の事態でも代役を務め、観客を魅了する若手スターが登場しているが、一方で世間離れした振る舞いを続けていると、「コンプライアンス」が叫ばれる今日、歌舞伎界が世間からそっぽを向かれる可能性もある。歌舞伎界の大転換期かもしれない。
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