「耳が聴こえない母」を持った息子の「罪悪感」 作家・五十嵐大さんが考える障害者のホンネ
また、五十嵐さんの母親は3姉妹で姉が2人いる。五十嵐さんにとって伯母にあたる人物だ。この本の中では2人の伯母にも取材し、母が幼かった頃のことを訊いている。実は2番目の伯母とは祖父の葬儀の際に大喧嘩をして、それ以来疎遠になっていたというのだが、今回の本の執筆のために久しぶりに連絡を取り、関係を修復したという。
「伯母にはおじいちゃんのお葬式のとき生意気なことを言ってごめんなさいと謝りました。そうしたら電話の向こうで伯母は泣いてしまって。これからまた仲良くしようと、関係を再構築できました。母親の取材をしていた過程で、伯母との関係も変わっていきました」
話はそれるが、少し前にフジテレビで放送されたドラマ『silent』ではろう者の男性と聴者の女性のラブストーリーが描かれていた。このドラマをろう者の親を持つ五十嵐さんはどう受け止めていたのだろうか。
「ろう者のことや手話が広まるのはいいことだと思いました。ただ、ブームとして消費されて終わってしまうのは残念でもあります。1995年にTBSで放送されたろう者の男性と聴者の女性の恋愛を描いたドラマ『愛していると言ってくれ』のときも手話ブームが起きました。でも、これらのドラマに影響されて手話の勉強を始めた人が1年後、まだ手話を続けているかというとそうでもないと思うんです。結局は飽きてしまうというか……。それは非常に残念ですし、やはり、ろう者の言語である手話をもっと大切にしてほしいという気持ちがあります」
なかなか解決されない優生保護法の裁判
五十嵐さんの本で筆者が初めて知ったのが優生保護法という法律である。この法律はつい最近の1996年に「母体保護法」と改正されるまで続いた法律で、ハンセン病や知的障害などのある障害者は子どもを作らないよう、国から強制不妊手術を受けさせられていたというものだ。
障害のある子どもを持つ親が小さい頃に病院に連れて行き手術を行う場合もあれば、障害者施設に入っている人たちが無理やり手術を受けさせられていたケースもある。強制的に手術を受けさせられた被害者は1万6500人以上にものぼり、本人の“同意”を得た手術も含めると2万5000人にもなる(出典:藤野豊『強制不妊と優生保護法――“公益”に奪われたいのち』岩波ブックレット、2020年)。
しかし、本人が納得して手術を受けたというのも果たして本当に本人の意思であるのか不明なところがある。不妊手術をすると男性の場合、睾丸を摘出することもあり、ホルモンバランスが崩れ、後遺症として重い健康被害が続く場合がある。この優生保護法について書いている際が一番苦しかったと五十嵐さんは語る。
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