妊婦の6割が「出生前検査」を受ける米国の悩み レジェンド産婦人科医が語る「最新事情と混乱」
胎児の染色体疾患を調べる検査は古くからあり、アメリカでは、まず1970年代初頭に羊水検査ができて広く普及した。羊水検査は腹部から子宮に針を刺して羊水を採取し、胎児細胞を培養して染色体を調べる。その後、胎盤の一部を採取して調べる絨毛検査、胎児を視覚化する超音波検査などが登場し、検査に選択肢ができていった。
これらは、いずれも高い技術を持った医師を必要とする検査である。さらに出生前検査は、病気を診断された胎児を「治療」する意欲を持つ医師たちが、その発展を支えてきた。
エヴァンス氏はその1人で、胎児医療の草分けとして若い医師たちに技を伝えてきたので、専門医たちからレジェンドと呼ばれている。
日本では、出生前検査は人工妊娠中絶につながることがあるため「命の選別」とされ、抑制的に行われてきたが、アメリカでは遺伝カウンセリングが普及し、妊婦の自己決定権が尊重されてきたのが日本と異なる点だ。
州によって異なる検査への対応
「アメリカ産婦人科学会は、胎児の染色体の検査について『すべての妊婦が受けられるべき』という方針を明言しています(*1)。選択肢を医師から説明され、自分で選べることは、アメリカの医療では患者の基本的な権利と考えられています。それを怠った医師は訴えられることもあります」
ところが、その大前提が最近は変化してきたと、エヴァンス氏は続ける。
「特にこの10年ほどの間に、状況は悪くなりました。共和党の支持者が多いレッド州と呼ばれる地域では、人工妊娠中絶の非合法化が進行しています。その結果、出生前検査について、妊婦に何も話さない産科医が増えています。出生前検査は中絶につながり得るからです」
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