妊婦の6割が「出生前検査」を受ける米国の悩み レジェンド産婦人科医が語る「最新事情と混乱」

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アメリカの出生前検査の今をお伝えします(写真:JuliaDorian/PIXTA)
胎児の染色体疾患を、母体の血液だけで調べる出生前検査「NIPT(Non Invasive Prenatal Testing:非侵襲性出生前遺伝学的検査)」。日本でも希望する妊婦が増えているが、医師によって考え方が違い、学会の認める認証施設とそうではない非認証施設があるなど、混乱が続いている。だが、それは日本だけの話ではない。
妊婦の約6割が何らかの出生前検査を受け、出生前検査の相談体制が整っているとされてきたアメリカでも同様だという。日本人類遺伝学会の招聘で来日した、出生前検査のレジェンド産婦人科医、マーク・I・エヴァンス氏に、アメリカの出生前検査の最新事情を聞いた。

胎児の染色体疾患を調べる検査は古くからあり、アメリカでは、まず1970年代初頭に羊水検査ができて広く普及した。羊水検査は腹部から子宮に針を刺して羊水を採取し、胎児細胞を培養して染色体を調べる。その後、胎盤の一部を採取して調べる絨毛検査、胎児を視覚化する超音波検査などが登場し、検査に選択肢ができていった。

マーク・I・エヴァンス氏。アメリカ胎児医学財団:Fetal Medicine Foundation of America理事長/マウント・サイナイ医科大学校産婦人科学教授(写真:筆者撮影)

これらは、いずれも高い技術を持った医師を必要とする検査である。さらに出生前検査は、病気を診断された胎児を「治療」する意欲を持つ医師たちが、その発展を支えてきた。

エヴァンス氏はその1人で、胎児医療の草分けとして若い医師たちに技を伝えてきたので、専門医たちからレジェンドと呼ばれている。

日本では、出生前検査は人工妊娠中絶につながることがあるため「命の選別」とされ、抑制的に行われてきたが、アメリカでは遺伝カウンセリングが普及し、妊婦の自己決定権が尊重されてきたのが日本と異なる点だ。

州によって異なる検査への対応

「アメリカ産婦人科学会は、胎児の染色体の検査について『すべての妊婦が受けられるべき』という方針を明言しています(*1)。選択肢を医師から説明され、自分で選べることは、アメリカの医療では患者の基本的な権利と考えられています。それを怠った医師は訴えられることもあります」

ところが、その大前提が最近は変化してきたと、エヴァンス氏は続ける。

「特にこの10年ほどの間に、状況は悪くなりました。共和党の支持者が多いレッド州と呼ばれる地域では、人工妊娠中絶の非合法化が進行しています。その結果、出生前検査について、妊婦に何も話さない産科医が増えています。出生前検査は中絶につながり得るからです」

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