工場排水で地域に貢献「ミツカン工場」の凄い発想 工場に隣接するビオトープで可能になったこと

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そんな土地に工場ができたわけだ。

まず、工場排水については、地元の同意をとる必要があり、地元の水利組合幹部に館林市(群馬県)、栃木市(栃木県)のミツカン工場を視察してもらい、排水の安全性を確認してもらった。

当初は工場排水をそのまま環境中に排出していたが、水の少ない地において、地域の農業用水を確保することも大切と考えた。とはいえ、工場排水は水質汚濁防止法で定める基準はクリアしていたものの、農業用水の基準では窒素濃度が高めだった。そこで、排水を湿地ビオトープからビオトープ池に流し、ビオトープの水生植物などによって窒素を吸着させた後に田んぼに流すことになった。

「食品工場のビオトープにおける住民・企業・専門家協働型の計画・運営に関する研究」によると、窒素濃度は工場排水では0.7〜1.6mg/Lだが、ビオトープを経由することで0.4〜0.7mg/Lになり、農業用水基準である1mg/Lを下回っている。

ビオトープ
ビオトープを通過した水は農業用水に(写真:筆者撮影)

自然環境に優しく、地域にも貢献できる水使い

三木工場では排水をビオトープに流し、そこで自然環境を保全しつつ脱窒を図り、近隣の農家の米作りに活用されている。TSMCやカールスバーグが製造工程という閉じたプロセスのなかで水循環を図ったのに対し、三木工場では地域という開かれた場所で水循環を図り、自然環境にやさしく、地域にも貢献できる水使いを実現しているのだ。

企業が水の使い方を工夫することで、地域の水循環を健全にすることは、日本各地でできる。工夫の仕方はさまざまだ。例えば、TSMCの進出を契機に多くの企業が進出し、地下水量が減少する懸念がある熊本県では、新たな進出企業に対し、涵養を求めている。具体的には、森林を保全したり、稲刈り後の田んぼに水を張るなどして水を地下に浸透させようというものだ。

企業にとって「水リスク」の管理は、自社の利益を確保するためにも、自社がかかわる地域の環境保全・改善のためにも、今後ますます重要なテーマになることは間違いない。

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橋本 淳司 水ジャーナリスト

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はしもとじゅんじ / Junji Hashimoto

武蔵野大学客員教授。アクアスフィア・水教育研究所代表。Yahoo!ニュース個人オーサーワード2019。国内外の水問題と解決方法を取材。自治体・学校・企業・NPO・NGOと連携しながら、水リテラシーの普及活動(国や自治体への政策提言やサポート、子どもや市民を対象とする講演活動、啓発活動のプロデュース)を行う。近著に『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る 水ジャーナリストの20年』(文研出版)、『水がなくなる日』(産業編集センター)など。

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