少子化なのに「絵本」市場は拡大の知られざる裏側 大人を意識した絵本も登場「新規参入も続々」
絵本はもともと既刊の占有率が高いジャンルだ。
トーハンのデータによると、新作ではない既刊本のPOS売り上げの割合は文芸系37.4%、生活系65.9%、趣味実用60.2%だが、2022年の児童書の既刊本は78%、絵本だけに限ると83.3%とほかのジャンルに比べて既刊本の割合が格段に高い。
しかし、「実は10年前の児童書は既刊の占有率が92%、新刊は8%程度だった。それがこの10年で新刊本の割合が大きく伸びている」と河上さん。
点数自体は若干増えているものの、ほぼ横ばいという状況下において、「ヒット作が生まれ、ロングセラー作品も引き続き売れている。この10年で児童書に参入する出版社も増え、書店では店舗リニューアル時に棚を広げて注力しているところも多い」(河上さん)と言う。
100万部以上売れた絵本
トーハンでは2006年から、累計100万部以上売れた絵本を「ミリオンぶっく」としてまとめ、広く発信する取り組みを行っているが、735万部と日本で最も売れている絵本『いない いない ばあ』(文・松谷みよ子、絵・瀬川康男/童心社/1967年刊)を筆頭に、今年で誕生60周年を迎え、シリーズ合計2150万部を超える『ぐりとぐら』(551万部/文・なかがわりえこ、絵・おおむらゆりこ/福音館書店/1967年刊)。
発売から47年を経てミリオンを達成した『おばけのてんぷら』(作・絵・せなけいこ/ポプラ社/1976年)など100万部以上を売り上げる130点が、絵本の売り上げの10%超を占めている。それほど、ロングセラー作品の底力は大きい。
そして「基本的に、絵本は読者と購入者が違う」ということも、他のジャンルの本との大きな違いだ。読み手は子どもだが、購入するのは親などの大人たち。たとえ子どもが欲しがった本だとしても、最終的に購入に至るかどうか判断するのは多くの場合子ども本人ではない。
その点は出版社も理解しており、近年は大人も意識した絵本も増えている。それが出版不況下でも新たなヒット作を生み出す背景にもなっているのだ。
例えば、2023年上半期ベストセラー児童書ジャンルの1位の『大ピンチずかん』(小学館)や、3位に一挙4作品ランクインした『パンどろぼう』シリーズ(KADOKAWA)などは、オチがしっかりしていて、大人が読んでも納得感がある。
「絵本の内容が世相に合っていて、コミカルで、本離れした人にも読みやすい。『パンどろぼう』シリーズは、大人も子どもも楽しんでおり、グッズも売れている。出版社もシリーズ化、続編投入のスパンを短くして、店頭でのプロモーション展開など広げている印象がある。また、1冊1冊に時間をかけてつくる出版社もある。そこが絵本のおもしろさであり、奥深さだろう」(河上さん)
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