少子化なのに「絵本」市場は拡大の知られざる裏側 大人を意識した絵本も登場「新規参入も続々」

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店内の雑誌や書籍の選書、取り扱い雑貨、企画イベントなど、書店の存在そのものが情報感度の高い大人たちの情報発信基地のようなイメージが強い代官山 蔦屋書店でも絵本の売り上げは好調だ。

そもそも代官山 蔦屋書店がオープンした2011年当初は、「キッズ」というジャンルはなかった。それが顧客の声を受け、フロアをどんどん拡大。オープン時は人文ジャンルの1コーナーにすぎなかった絵本コーナーが、今では1号館の2階スペースの半分以上を占めるほどになった。

代官山 蔦屋書店の絵本コーナーは1号館の2階の半分以上のスペースを占める。担当者の目利きと思いの詰まった選書や企画フェアなどの棚は、見ているだけで楽しい(撮影:佐々木仁)

大人向け、子ども向けの絵本イベントも随時行っており、2022年秋には「えほん博」を大々的に開催。絵本作家らによるサイン会や新日本フィルハーモニー交響楽団メンバーとアナウンサー堀井美香さんによる朗読演奏会、絵本作家 五味太郎さんのトークイベントなど、まさに”絵本のお祭り”で、イベントはすべて満席と大盛況だったという。

えほん博の担当者で、代官山 蔦屋書店キッズコンシェルジュの瀬野尾真紀さんは、絵本そのものの特性をこう説明する。

「ほかのジャンルに比べ、絵本の売り上げが下がりにくいのは、紙である必要性があるから。絵本はページをめくる動作自体が意外に大事。大人の本はめくる時にそれまでの文章を覚えていて次のページに進んでいくが、絵本は文章も切れて、絵も変わる。めくることで場面転換が起こるプロダクト。これらは電子書籍では賄いきれない」

作り手の裾野も広がる

その絵本の魅力は、読者だけではなく作り手の裾野も広げている。

「絵本は、色、形、紙の質など表現の幅が広く、決まった表現がないため、クリエーターにとって魅力的なジャンル。この10年くらいでさまざまな分野のクリエーターたちが絵本を出すようになった。そういう人たちが絵本を出すことで、読者層も広がっている」(瀬野尾さん)

作り手がターゲットを子どもに絞っていなかったり、内容も子ども向きの単純明快なものではなかったりすることもあり、大人にも受けている。その代表格が画家junaidaさんの絵本だ。

緻密で圧倒的な画力の美しい絵と、想像力を掻き立てる展開は、何度も目を凝らして読み返したくなる。三越クリスマスのメインビジュアルや「ほぼ日手帳」にも作品を提供し、ボローニャ国際絵本原画展で入選した実力派だ。

実際「大人絵本」と冠をつけて売った書店もあるようだが、いざ販売してみたら、大人も子どもも関係なくファンがついた。もはや絵本は、対象年齢は問わずファンを開拓しているのだ。

絵本コーナーの一角にあるjunaidaさんのコーナー。大人も子どもも、性別も、関係なく楽しめる世界観で新しい絵本の需要を切り拓いた(撮影:佐々木仁)

ほかにも、写真家の若木信吾さんが立ち上げた若芽舎からは有名クリエーターたちの絵本を出版。代官山 蔦屋書店で2月に最も売れた赤ちゃん絵本『やぎさんのさんぽ』『どこどこ?ねどこ』は刺繍作家junoさんによるもの。出版社は老舗の福音館書店だ。7月には葉っぱ切り絵アーティストのリトさん初の絵本『まねっこカメレオン』(講談社)が出る。

また、専門書や参考書を発行する化学同人も絵本ジャンルに参入していたり、新潮社も今年6月にNHK Eテレの人気番組の絵本を発売。同社としては約70年ぶりの絵本出版となるなど、出版社や作者もバラエティ豊かになっている。

代官山 蔦屋書店ではjunoさんの刺繍絵本とともに、刺繍をあしらった作品も販売し、大人気企画となった(すでに会期は終了)(撮影:佐々木仁)

絵本業界の活況の裏には、各出版社が新たなクリエーターを発掘する絶え間ない努力をし、絵本作家のデビューの間口を広げる絵本賞などが増えたことも起因しているようだ。

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