少子化なのに「絵本」市場は拡大の知られざる裏側 大人を意識した絵本も登場「新規参入も続々」
このような絵本の好循環を作っているのは、出版社側の取り組みだけではない。
全国出版協会出版科学研究所常務理事、出版科学研究所所長の加藤真由美さんによると、「自治体とコラボして2000年から始まった『ブックスタート』が根付いてきたことも大きい」と言う。
ブックスタートとは、0歳児健診などの機会に自治体の事業として、絵本をひらく「体験」と「絵本」をセットでプレゼントする活動で、2023年2月末現在、全国1102の自治体(全国の66.3%)で行われている。もともとはイギリスで行われていた取り組みだ。
産後のママと関わることの多い行政が、主体的に子どもと絵本の接点を作る取り組みを行うことで、どの赤ちゃんも絵本に触れるきっかけが生まれている。
「読書推進の原点に返ると絵本がある。赤ちゃんから大人まで人気の絵本だが、対象がはっきりしているので取り組みやすい。政策的にも子育て支援に注力する自治体が増え、環境が整ってきた」(加藤さん)
また、2012年には国立青少年教育振興機構により絵本専門士の資格も設立され、絵本に関する高度な知識、技能、感性を備えた専門家が生まれている。今年の第10期絵本専門士養成講座は、定員70名のところ1500人を超える応募があった。2019年からは全国の大学や短期大学などに「認定絵本士」養成講座も設置され、絵本の専門家を生み出す仕組みが出来上がってきた。
絵本にもじわり値上げの波
しかし、昨今の物価高で、輸送費や紙代、印刷費用などが高騰し、絵本もじわじわ値上がりしている。絵本は、子どもを対象としているので、「なるべく安価に」との思いを持っている出版社も多く値上がりは遅かったというが、それでも改訂版のタイミングなどで物価高騰の波は避けられなくなってきた。
「2014年に発売された『MAPS(マップス)新・世界絵図』という大型判の絵本が3200円(発売当時税抜き価格、現在税抜き3800円)にもかかわらず、かなり売れた。高くても納得感があれば売れることが立証され、勝負をかける会社も出てきた」と代官山 蔦屋書店の瀬野尾さんはが言うように、絵本独自の前向きな要素もある。
「本は嗜好品だが、子を持つ親にとって絵本はほぼニーズ品。今後、物価高騰などの影響をどこまで受けるかまだ不透明だが、好調なジャンルなので、各社継続して注力している」とトーハン書籍部マネージャーの高橋正利氏は言う。
新しいクリエーターたちが、自由さを求めて絵本に参入してきているように、本来、絵本は楽しく自由な世界だ。
いろいろな育児情報に触れるたび、「情報教育や知育のために絵本をたくさん読み聞かせなくては」と少しプレッシャーに感じることもあるが、紙だからこそ楽しめる世界観を、大人も、子どもも関係なくのぞいてみてほしい。
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