「致死率88%」という数字だけが独り歩きすることにも注意が必要であろう。勝田教授は、エボラ出血熱が流行した2014年のように、心配と不安で国内がパニックになる事態とならないようにと警鐘を鳴らす。
「エボラ出血熱のときに見られたように、感染症に対する心理的影響は強く、感染症の疑いがある人への偏見や、社会的な騒動へと発展する可能性もある。そこは注意しなければならない点です」(勝田教授)
なお、マールブルグ病のワクチン開発についてはどうなのか。
「マールブルグウイルスはエボラウイルスと同じタイプのウイルスなので、技術的には可能です。ただ、製薬会社が莫大な投資をして、それに見合うだけの需要があるかどうか。(今のところの感染者数を考慮すると)ワクチンを作ろうということにはならないでしょう」(勝田教授)
感染症は自然からのしっぺ返し
マールブルグ病はこれまでに、コンゴ民主共和国で100例以上、アンゴラで200例以上、そのほかガーナ共和国やギニアで確認されるなど、散発的に発生している。今回の赤道ギニアとタンザニアは、それぞれ初めての感染事例となる。どうしてこういった各国で「初の」感染症が発生しているのだろうか?
勝田教授は「それは人間がやってきた事に対する自然の『しっぺ返し』です」と述べる。マールブルグ病のような感染症の広がりは、人間の身勝手な活動――特に森林伐採などによる自然環境の破壊が招いた結果、というのだ。
「2014年のエボラ出血熱では、それまで起こっていなかったリベリアやギニア、シエラレオネで大きくアウトブレイクしました。後になってわかったのは、元々アフリカ中部に棲息するコウモリが、開発・森林伐採などで棲家を追われ、西へ西へとウイルスを持って移動した結果だったということでした。人間にいじめられたコウモリが移動すれば、ウイルスも運ばれてきます」(勝田教授)
マールブルグ病の発生は、私たちが自然環境を保護し、持続可能な生態系を維持することの重要性を示唆しているといえるのではないだろうか。「感染症を理解することは、SDGsの理解にもつながる」と勝田教授は強調する。
筆者が在住するタンザニアでは、2024年5月現在、9人が発症し、1名の医療従事者を含む6人が死亡している。ところが、タンザニア政府の保健省は4月末に行われた記者会見で、「マールブルグ病の新たな症例がこのまま出なければ、我々は5月31日にマールブルグ病の終息を宣言する」と発表した。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら