また、同じフィロウイルス科のエボラ出血熱ではワクチンが開発されているが、それとは異なり、現時点でマールブルグ病にはワクチンや有効な治療薬が存在しない。そのため、点滴などによる対症療法が主となる。
日本で広がる心配はあるのか?
気になるのは、マールブルグ病が日本に入ってくるか、あるいは広がるかどうか、というところだろう。現段階では日本国内では感染者は確認されていない。
勝田教授は、「日本にマールブルグ病が広がる可能性はそれほど高くない」と指摘する。その理由の1つとして感染経路を挙げる。
マールブルグウイルスは世界的パンデミックとなった新型コロナウイルスのように空気を通じて感染することはなく、主に感染した患者の血液や唾液、排泄物に直接触れることで感染する。エボラ出血熱が流行した2014年、感染経路として問題視されていたのは、日本など先進国ではおおよそ行われていない「アフリカの慣習」だった。
「(アフリカの一部地域で今も行われている)野生のコウモリを捕獲・解体・調理・食べるというブッシュミートや、感染者の遺体を遺族が素手で洗い清める習慣は、感染の大きな要因になっています。しかし、先進国ではこうした慣習はありません」(勝田教授)
万が一、感染者が入ってきたとしても、万全の対策が整っていると話す。
「日本では、感染症法で一類感染症に指定されているため、感染すれば特定感染症指定医療機関か第一種感染症指定医療機関に強制入院という対応となる。このように隔離する環境が整っている日本では、感染が拡大する可能性はほぼないでしょう」(勝田教授)
WHOも、今回のマールブルグ病が世界レベルで拡大するリスクは低いと評価している。
マールブルグ病の致死率が最大で88%という数字は、感染症の中でも極めて高い数字である。死因は下痢や嘔吐による脱水、多臓器不全だ。
ただ、勝田教授によれば、日本を含む先進国では、医療のインフラが整っており、実際に感染したとしても、これほど高い致死率にはならないと指摘する。
「エボラ出血熱のときも同じでしたが、多くの途上国では医療機関へのアクセスが悪く、症状が出ても速やかに治療に結びつかなかった。その結果、多くの重症者や死者を出してしまいました。実際、脱水を予防する経口補水液を大量に飲めた人だけが助かっています」
こういう事態は、ICU(集中治療室)が整い、すぐに点滴や脱水を予防できる日本を含む先進国ではありえない。「したがって、感染者の88%が亡くなることは日本ではありません」(勝田教授)。
途上国と先進国の間の治療に関するインフラのギャップは、エボラ出血熱の致死率にも現れている。WHOによればエボラ出血熱の世界全体の致死率は50%とされているが、アメリカ単独で見ると約20%まで下がる。
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