ドラッカーが日本に遺した「希望のメッセージ」 「人口問題」は社会的イノベーションの大好機

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田中それから最後、人口問題に関して最近面白いなと思ったのは、エコノミストのエミン・ユルマズさんの意見です。日本は無人化の技術がほかの国に比べて圧倒的に進んでいるので、これで代替できる部分があると言っています。

人口が多いところでは無人化技術によって大量に失業が出てしまいますが、日本はこれからの高齢化、人口減少のなかで、この技術を進めていけば、1つの契機になりうるのではないでしょうか。もちろん高齢化社会はマイナスのほうが大きいとは思いますが、マイナスのなかにもプラスに転化できる要素というのはあるのではないか。そこを期待したいと思います。

制約条件は次の発展条件

小島それに関連した話を補足しますと、ドラッカーがインタビューのとき何度も言ったのは、「日本が今、成長発展の制約条件だと頭を抱えているもの、これが次の発展の条件になるのではないか」ということでした。

たとえば高齢化の問題で日本は先行していますが、日本のあとから高齢化社会を迎える国は数多くある。今、中国は人口の1割にあたる1億数千万人が高齢者ですが、それが2割、3割になればものすごい高齢社会となります。社会的なシステムはそれに対応していない。

日本は高齢化の最先端を行っているから、やらなくてはいけないことが明らかになっている。新しいビジネスモデルや社会モデルや、あるいは技術やサービスなどいろいろなシステムが出てくる。それは日本のあとを追いかけて高齢化が進む国々にとって大変に重要なものだから、日本がちゃんとやれば、日本にマーケットが押しかけてくる。チャンスだと。要するにモデルになれということです。

それから環境問題についてですが、ドラッカーは「日本はすでに60年代の公害問題を乗り切ったじゃないか」と、かつての四日市などの公害問題のことを語っていました。日本は産業発展の基盤としての国土が狭いので環境負荷がかかりやすい。そのなかで経済を動かすためには、環境負荷が軽くすむ仕組みや産業構造があるはずだ。「国土が狭くて環境負荷がかかりやすいことが日本の制約条件というけれども、これは新しいビジネスモデルや技術や社会モデルを生み出す、1つの大きなエンジンになる」と言っていました。

21世紀の世界の価値観として環境重視があるのだから、やったらいいじゃないか。日本は全部それを後ろ向きに、悲観的にとらえているが、次の大きな発展のための、しかも日本モデルとして世界に提示できる何かがあるはずだ。そういうチャレンジをしてほしいということを彼から何度か聞かされました。

ドラッカーは「さまざまな制約条件は、日本のその次の発展条件だ。21世紀の前半はそのチャンスだ」と言いました。今こそ、日本はこのドラッカーのメッセージを生かしていかなければならないと思います。

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小島 明 元日本経済新聞社専務・論説主幹

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こじま あきら

1942年神奈川県生まれ。65年早稲田大学政治経済学部卒、同年日本経済新聞社入社。69‐70年、ブリティッシュ・カウンシル招請英マンチェスター大学留学。ニューヨーク支局長、論説主幹、専務取締役を経て、日本経済研究センター会長。慶応大学教授(商学研究科)、政策研究大学院大学理事・客員教授。現在、国際経済連携推進センター理事長。著書に『調整の時代』、『日本経済はどこへ行くのか』など。ボーン・上田記念国際記者賞、日本記者クラブ賞、新聞協会賞を受賞。

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白川 方明 元日本銀行総裁

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しらかわ まさあき / Masaaki Shirakawa

1949年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。経済学修士(シカゴ大学)。第30代日本銀行総裁(2008~2013年)。2018年9月より現職。著書に『現代の金融政策――理論と実際』(日本経済新聞出版社、2008年)、『バブルと金融政策――日本の経験と教訓』(共編著、日本経済新聞社、2001年)がある。

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田中 琢二 元IMF日本政府代表理事

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たなか たくじ

1961年愛媛県生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業後、1985年旧大蔵省入省。ケンブリッジ大学留学、財務大臣秘書官、財務省主税局参事官、大臣官房審議官、副財務官、関東財務局長などを経て、2019年から2022年までIMF日本政府代表理事。現在、同志社大学客員教授、公益財団法人日本サッカー協会理事。著書に『イギリス政治システムの大原則』(第一法規)がある。

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