ドラッカーが日本に遺した「希望のメッセージ」 「人口問題」は社会的イノベーションの大好機

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白川方明(以下、白川):今、日本の経済・社会は大きな問題に直面していますが、それに関連して、ドラッカーのメッセージのなかでは、人口問題が社会の姿を規定するうえで最も重要な要因であるという認識、それから、単なる技術革新ではなく社会的イノベーションが重要であること、この2つを私はとくに大事だと思っています。

人口問題が経済、社会に大きな影響を与えるという点については、最近はある程度認識が高まってきましたが、10年前、20年前はそうではなかった。それでも今みんなが議論しているのは高齢化ですね。高齢化はもちろん人口問題の中で大きなファクターですが、圧倒的に重要なのは少子化、人口減少です。

1997年に小島さんが行ったインタビューで、「高齢化と経済、社会の関係をどう考えるか。日本ではそこに関心があります」と質問したのに対し、ドラッカーは「いやいや、私が心配しているのはそうした問題よりも、日本の出生率が低いことです」と言っていますが、まさにそのとおりですね。

私自身この1997年の段階ではそういう認識はなかったけれども、今から見るとこれはもう本当にそのとおり。ごく最近、政府の少子化対策で多少議論が起きていますけれども、しかし、少子化のもつ意味、人口減少のもつ意味はまだまだ圧倒的に過小評価だと思います。現在起きていることを正確に認識する。それが将来に向けての取り組みにつながっていきます。つまり人口減少について事実をしっかり認識すること、これがすべての出発点だと思います。

社会資源の再配分は避けられない

白川:それから、2つめの社会的イノベーションですが、最近の典型的な議論は、「人口が減少しているから、生産性を上げる必要があるのだ」というものです。もちろん、生産性を上げることは必要だけれども、人口減少と、生産性が上がらないことは無関係ではなく、人口が減少する社会のなかでは生産性に対していろんなルートを通じて下向きの圧力がかかっている。

社会全体、経済全体の生産性は、資源配分が生産性の低い分野から高い分野へ移行していくという非常につらいプロセスだけれども、これが必要です。社会全体の生産性が上がるというのはそういうことだと思います。要するにリアロケーションの問題です。

小島明/元日本経済新聞社専務・論説主幹。著書に『調整の時代』、『日本経済はどこへ行くのか』などがある(撮影:梅谷秀司)

リアロケーションは、産業間や企業間、あるいは人口減少地域から人口増加地域とか、あるいは高齢者から現役世代とか、あらゆる意味での資源の再配分です。これはある程度、社会契約や社会の仕組みを変えないかぎり難しい。難しいから、議論は結局「スタートアップ企業よ出でよ」というかたちのイノベーション論、技術的なイノベーション論に終始することになっている。

必要なことは、社会契約をどう見直していくかです。典型的には今の少子化の議論などがそうですね。もっぱら金銭的インセンティブばかり言っているけれど、これで出る成果はたかが知れています。

そういう意味で、今、日本が直面している最大のチャレンジは、どうやって社会的イノベーションを起こしていくかということで、その認識をもたなければ、なかなかブレークスルーはできないと思います。やや抽象的なレベルになりますが、人口問題と社会イノベーションの重要性の認識、これらが最も骨太のインプリケーションで、ドラッカーから得られる教訓だと思います。

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