ドラッカーが日本に遺した「希望のメッセージ」 「人口問題」は社会的イノベーションの大好機
小島:まったく賛成でして、日本ではイノベーションを現場のエンジニアが生み出すテクニカルなイノベーション、技術革新だととらえられている。技術革新というのは、1960年代に『経済白書』がイノベーションを特集した際に、イノベーションを「技術革新」と訳したんですね。しかし、その脚注には、シュンペーターの新しいマーケットの話や生産の方法など、きちんと5つの項目で総合的に書いてある。だけど、本文の訳語が一人歩きしてしまった。
イノベーションは経営者が考えるもの
小島:その結果、日本ではイノベーションは、CEOが本気で考えるもの、社会を本気で変えるようなものではなくて、エンジニアがやる話になった。それによってオーバースペックのガラパゴスになった技術は生まれたけれども、世界に売れない。ニーズがなければマーケットはつくれない。マーケットをつくることにつながるようなものでなければイノベーションとは言わないというのがドラッカーの発想なんでしょうね。
では、イノベーションはどうやってできるかというと、人間がつくる。人はコストではなくて資源である。その資源をいかに使うか、その発想なくしてイノベーションはない。それはやはりいろいろな制度を変えなくてはいけないでしょうね。
それから人口について、まさにドラッカーは高齢化以上に少子化が問題だととらえていました。じつは少子化を中心とした人口減少が起こって、国家の崩壊をもたらしたのは古代ローマであったと。人口減少がローマ帝国を崩壊させた。それ以来の人口減少が今、始まっているんだという言い方をしています。
これから日本だけではなくいろいろな国で人口減少が始まる。少子化です。高齢化の問題は、たとえば日本でいえば団塊の世代が全部他界したら、スッと楽になるわけです。だけど、少子化は、ドラッカーに言わせれば、これを放置することは国家としての集団自殺である。人口消滅ですね。
日本は江戸時代に非常にうまいバランスがあって、人口は数千万でいいんだと言う人もいます。日本もそれぐらいでいいんじゃないのという話だけれども、問題はそのプロセスです。逆三角のピラミッドで小さくなっていくことが今、起ころうとしている。これはやはりもう塗炭の苦しみですね。これをどうするか。すでに始まった未来です。
政府は「新しい資本主義」で少子化問題を議論しているけれども、おっしゃるとおり、ちょっと補助金を増やすという話でしょ。やはり社会的なイノベーションが必要です。人間がうまく能力を発揮できて、夢がもてる、それで家族も大きくなれるという、その希望を与える仕組みとは、社会的なイノベーションだと思います。